終戦に見た寝返り、酒と骨折とリハビリ 半藤さんの言葉

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 12日に90歳で亡くなった作家の半藤一利さんは、2019年に本紙別刷りbeで「歴史探偵おぼえ書き」を連載しました。新聞の訃報について、15歳で迎えた終戦の日の思い出、忠犬ハチ公との出会い、連載終了のきっかけとなった骨折とリハビリの日々などについて綴られました。連載の傑作選をご紹介します。

【2019年9月14日別刷りbe】

漱石が送った猫の死亡通知

 新聞のどこから読みだしますかと多くの人に聞くと、訃報(ふほう)欄からと答える人が意外と多い。物故者の年齢と死因にまず目がいくという。

 ところがその昔は死亡広告は新聞社にごくわずかなサンプルがあって、名前と日付と場所が違うだけ、という無味乾燥な文面である場合が多々あったらしい。それに抵抗を感じて、自分なら、と思いたった人がいても不思議ではない。明治三十七年(一九〇四)四月十四日の朝日新聞と万朝報にこんなのが出て、読者をびっくりさせた。

「僕本月本日を以て目出度死去仕候間此段広告仕候也」

 奇抜さをもって有名な斎藤緑雨が死期を悟り、見舞いの友人に託しておいたものであったという。

 新聞ではなく、知人に送った通知状にも愉快なのがある。夏目漱石が『吾輩は猫である』のモデルといわれた黒猫の死にさいして、鈴木三重吉、小宮豊隆、野上豊一郎たち懇意な門下生あてに送ったものである。

「辱知猫義久々病気の処、療養…

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