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 戦後の在日朝鮮人文学の草分け的存在、金(キム)達寿(ダルス)氏の生誕100年展を開いていた神奈川県立神奈川近代文学館(横浜市中区)が、コロナ禍で臨時休館に追い込まれた。在日1世として民族差別と向き合い、人間とは何かを問い続けた作家のことを多くの人に知ってほしい。職員たちが動いた。

 金氏は日韓併合下の朝鮮半島で生まれ、10歳で海を渡った。苦学して日大芸術科を卒業。戦中戦後の約10年間は新聞記者などとして横須賀で暮らし、神奈川とも縁が深い。『玄海灘』のほか『朴達(パクタリ)の裁判』『密航者』など、在日朝鮮人への民族差別をテーマにした小説を次々と発表。後半生には、古代の日朝関係の見直しを試みた季刊誌「日本のなかの朝鮮文化」のシリーズ(全12巻で刊行)を手がけるなどした。1997年に77歳で亡くなった。

 同文学館は2003年、金氏の著作権の継承者から、直筆の原稿や創作ノート、執筆資料のほか、佐多稲子、司馬遼太郎や中野重治らと交わした書簡など計1万650点を寄贈され、「金達寿文庫」として保存してきた。先月12日に始まった生誕100年展では、寄贈品を中心に、初めて活字になった短編小説「位置」が載った1940年発行の冊子「芸術科」のほか、『玄海灘』『朴達の裁判』の原稿、『太白山脈』の創作メモ、絶版となった著作物など、えりすぐりの計約200点を並べた。

 同文学館が金氏の資料をまとまった形で公開するのはこれが初めて。展示課の和田明子さんは臨時休館前、「日本人と朝鮮人の相互理解を願って作品を書き続けた思いをくみ取ってほしい」と話していた。

 だが今月、コロナ禍の拡大で緊急事態宣言が再び出され、施設は2月7日まで臨時休館(2月8日は通常休館)となった。9日から再開予定だが、感染状況によっては緊急事態宣言が延長される可能性もある。最悪の場合、臨時休館したまま3月14日の会期最終日を迎えかねない。

 そこで同文学館は、会場に来なくても展示がわかる手立てを講じることにした。今月17日から、会場で観覧者に渡していたリーフレットをホームページでダウンロードできるようにする。これを見れば、金氏の足跡を多数の写真とともにたどれる。さらに、会場内や展示の様子を紹介する画像をホームページに載せることも計画している。

 問い合わせは、同文学館(045・622・6666)へ。(茂木克信)

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