米の弾劾制度、権力の乱用チェック 政治的な色彩も強く

鈴木春香
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 米国の弾劾(だんがい)制度は、合衆国憲法に定められている。大統領や政府高官、裁判官らが「反逆罪、収賄罪、その他の重罪または軽罪」にあたる行為をした場合、議会が裁判にかけて罷免(ひめん)できるという仕組みだ。

 米国は英国王の専制に反発して独立した歴史があるため、憲法では権力の一極集中を避けようと立法、行政、司法の三権分立を徹底し、互いに抑制しあう構造が作られた。弾劾はこの考えに基づき、立法府の議会が、行政官や裁判官の権力乱用をチェックする手続きとなっている。

 ただ、具体的に何が弾劾の対象に当てはまるのかは、憲法で明示されているわけではない。また、議会が行うため、政治的な色彩が強い。フォード元大統領は下院議員時代、「弾劾にあたる違反とは、歴史上のある一瞬において、下院議員の大半がそうだと思うことだ」と語った。

 弾劾の手続きを始めるのは下院で、過半数が弾劾に賛成すれば、対象者が訴追される。その後、弾劾裁判を行うのは上院だ。上院議員一人一人が陪審員の役割を担い、大統領の弾劾裁判では連邦最高裁の長官が裁判長を務める。裁判に出席した上院議員の3分の2以上が賛同すれば有罪となり、有罪の場合は罷免して失職させたり、将来にわたって米国の公職に就くことを禁じたりすることができる。

 過去に弾劾裁判にかけられた大統領はトランプ氏以外に2人いる。南北戦争後の激しい議会対立をめぐり、権力の乱用などで1868年に訴追された第17代のジョンソン氏と、ホワイトハウス実習生との不倫疑惑に関する偽証などを問われ、1998年に訴追された第42代のクリントン氏だ。いずれも無罪だった。また、第37代のニクソン氏はウォーターゲート事件をめぐる司法妨害などに問われたが、弾劾訴追を避けられないと判断し、その前に辞任した。

 トランプ氏も、2020年の大統領選を控えてバイデン前副大統領らのスキャンダルを調べるよう、ウクライナ大統領に圧力をかけた「ウクライナ疑惑」について、2019年に権力の乱用と議会妨害で弾劾訴追され、翌年の弾劾裁判で無罪となった。連邦議会議事堂の襲撃事件をめぐり、反乱の扇動で弾劾訴追されたことで、史上初めて、2回にわたって弾劾訴追を受けた大統領となった。(鈴木春香)