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 ワクチンに期待される効果は「発症を予防する」「重症化を予防する」だけではなく「他人に感染させることを予防する」こともあります。発症予防や重症化予防はもちろん大切ですが、感染症の流行を抑えるには他者への感染予防効果が重要です。発症や重症化を減らしてもそのぶんだけ無症状感染者が増えるだけならば、流行を防ぐことはできません。

 しかし、現時点では、どの新型コロナワクチンも感染予防効果は明確には確認されていません。というのも臨床試験で他者への感染予防効果を検証するのは難しいからです。新型コロナワクチンの臨床試験はランダム化比較試験という質の高い研究デザインで行われました。発症予防効果や重症化予防効果は、ワクチン群と対照群のそれぞれで発症した人や重症化した人を数えて比較すれば検証できます。しかし、他者への感染予防効果は参加者本人を調べてもわかりません。

 ワクチンの感染予防効果を検証する方法の一つは集団全体を観察することです。もしワクチンに感染予防効果があるなら、ワクチンを接種していない集団と比べて、ワクチンを広く接種した集団ではワクチンを接種していない人でも発症や重症化が減るはずです。

 新型コロナワクチンの感染予防効果の検証はこれからです。ワクチン接種はイスラエルが先行しており、すでに人口の20%以上が1回目のワクチン接種を受けています。じきにワクチンに感染予防効果があるかどうかのデータが得られるでしょう。

 ただし注意も必要です。イスラエルはワクチン接種だけでなくロックダウンを含めた感染対策も並行して行っています。今後、イスラエルの新規感染者が減ったとしてもワクチンの感染予防効果のおかげとは断定はできません。もしかしたら、ワクチンの効果ではなく他の感染対策のおかげかもしれないからです。ランダム化比較試験と違って集団を観察する方法はあまりエビデンスレベルは高くないとされています。

 こういうときは複数の情報を合わせて考えます。これからさまざまな国で、異なる時期に、異なる規模でワクチンが接種されます。ワクチンに感染予防効果があれば、それぞれの国でワクチン接種後に規模に応じた新規感染者が減少する傾向が観察できるはずです。一つの国のデータだけだと偶然の可能性を否定できなくても、多くの情報を統合することでより説得力のある結論が導けるのです。

 いずれにせよ日本でワクチン接種が可能になるのはもうちょっと先の話です。前回も申し上げたように「有効なワクチンでも接種直後は効かない」ですし、ワクチンの効果は100%ではありませんし、感染予防効果があるとしても一定の割合以上の人が接種しないと集団における感染予防効果は出ません。当面はいまできる感染予防対策を続けていくしかありません。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。