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 遠く離れた場所から、テレビ電話を通じて証言した母親は涙声だった。

 鹿児島県日置市の民家で親族ら5人を殺害したとして、殺人と死体遺棄の罪に問われた岩倉知広被告(41)の裁判。この息子からの激しい暴力に耐えかね、家を飛び出した日を振り返り、母親は言った。

 「あのとき我慢して一緒にいれば、殺されるのは私1人で済んだかもしれません」

 2020年11月下旬、鹿児島地裁で始まった裁判員裁判。初公判に黒の長袖とズボン姿で現れた被告は、メガネをかけて伸びた髪を後ろに束ねていた。様々な道具を使って体を鍛えていたと伝えられた逮捕時の体形とは異なり、かなり痩せているように見えた。

 起訴状によると、被告は18年3月31日から4月1日にかけて、近くに住んでいた祖母(当時89歳)の家で、父親(同68)と祖母の首を絞めて窒息死させ、近くの山中に遺棄。4月6日には、2人の安否確認のために祖母宅を訪れた伯母(同69)、その姉(同72)、伯父の知人(同47)を同様に窒息させて殺害したとされた。

 裁判で被告は、事件に至る経緯や動機などについてこう語った。

 「自分は長い間、伯父を首謀者とする親族ら一派に様々な手段で迫害を受けてきた」「水道水に毒を盛られた」「住んでいた街を乗っ取られた」。

 真偽をただそうと、検察官や弁護人、裁判官らが様々な角度から質問した。だが、自分が迫害されているという主張は変わらず、繰り返される質問に「でたらめを言っているんじゃないんだ」と語気を強める場面もあった。

 最大の争点は、事件当時の被告の刑事責任能力だった。検察側も弁護側も被告が妄想性障害を抱えていた点で一致していたが、その「程度」については見解が大きく分かれていた。

 検察側は「妄想性障害の影響は軽微で完全責任能力があった。攻撃的で他罰的な人格傾向に基づき、自分の意思、判断で犯行に及んだ」として死刑を求刑した。弁護側は「重度の妄想性障害で、善悪を判断し、行動を制御する能力が著しく低下し、責任能力は限定的だった」と無期懲役を求めた。

 遠隔地に暮らす母親が、映像や音声で法廷とつなぐ「ビデオリンク方式」で証人尋問に臨んだのは、3回目の公判のことだ。

 子どもの頃の被告について、母親は「短気なところはあったが、素直で優しい子でした」と振り返った。勉強ができて運動も得意。曲がったことが嫌いで正義感が強かった。多少のトラブルはあったが、友達と外でよく遊び、新聞配達もしていたという。

しかし、被告はあることをきっかけに豹変してしまったといいます。

 高校では柔道部に所属し、楽し…

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