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 法律では、結婚する2人のどちらかが相手の姓(名字)に合わせ、夫婦が同じ姓になります。望めば結婚後もそれぞれの姓でいられる「選択的夫婦別姓」は久しく検討課題であり、賛否が対立しています。夫婦の姓を考えるフォーラムアンケートにも過去最多の4倍、1万9千余りの声が集まりました。まずはご意見を整理し、議論の糸口を探ります。

 今回のアンケート「夫婦の姓、どう考えますか?」には、1万9613票の回答が寄せられました。設問のうち選択的夫婦別姓の導入への賛否を聞いた項目への回答は、「賛成」8530、「反対」10832、「どちらともいえない」251。夫婦が別姓で結婚する選択肢を認めるかどうかで、なぜ意見が真っ向から分かれるのでしょうか。福岡県立大の阪井裕一郎専任講師(家族社会学)は「賛否の議論の枠組みは単純ではない」と指摘します。自由記述欄の回答を分類し、夫婦別姓の対立軸=図=で示してもらいました。

 夫婦別姓を認める法制化に賛成する多くの人(B)は、主に現行制度では別姓にできずに事実婚にしていたり、妻側の家名の継承を希望していたりする人たちで、別姓での法律婚を希望しています。一方、夫婦別姓に反対する人たち(A)の議論はBに向き合っていません。戸籍制度や法律婚そのものを否定的にとらえているCや、Dにあたる人たちに対して反論しているため、「議論がかみ合っていない」と分析します。

 阪井さんが事実婚の夫婦にインタビュー調査をしたところ、積極的選択というより、現在は別姓で結婚できないから、仕方なく事実婚にしている人たちが圧倒的に多かったそうです。「別姓反対の人は別姓を求める人たちの主張を思想だと決めつける傾向がありますが、それは事実と異なります」と阪井さん。「議論の大前提として、まずは『全ての夫婦に同姓を強制することが妥当かどうか』を軸にするべきでしょう」

 例えば、「夫婦同姓と夫婦別姓のどちらが日本の伝統なのか」という議論。阪井さんは「同姓と別姓のどちらが伝統か、男女平等か、正しいのかという話は一切関係ない。選択を認めるかどうかの議論だ」と述べます。「『日本の伝統』や『姓が同じだと家族の絆が深まる』といったスピリチュアル(精神的)なものを信じる自由が否定されるわけではない」として、別姓に賛成する人も「同姓か別姓か」という図式に乗るべきではないといいます。

 また、反対理由に子どもが被る不利益が挙がることについては、「子どもがかわいそうだという主張にはどれも合理的な根拠がない。例えば親子の姓が違っていじめが発生するなら、それは制度ではなく社会の側の責任です」と説明します。

 今後どこから議論すればいいのでしょうか。「検討されている法制度は、同姓を求める人と別姓を求める人の双方の自由を守る戸籍に変えようというものです。別姓を認めることで戸籍や婚姻制度が補強されてしまうことを危惧する人(C)もいますが、戸籍を最初から否定するのではなく、多様な関係を包み込む平等な制度に変えていく方向性もあるのではないでしょうか」

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 民法750条には、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又(また)は妻の氏を称する」と定められています。「氏」とは、姓や名字のことを指します。

 「夫又は妻」とありますが、現実には夫婦の96%が夫の姓を選んで結婚し、改姓による社会的な不便や不利益が妻に偏っていることが問題にされるようになりました。

 法相の諮問機関「法制審議会」の答申(1996年)を受けた改正案では、「夫又は妻の氏」か「各自の婚姻前の氏」を選ぶことができ、どちらの場合も、きょうだいの姓は統一することになっています。現在同姓である夫婦も、法律施行後1年以内なら、配偶者との合意に基づいて、別姓に転換できるというものです。夫婦と子どもが一つの戸籍に載る形は変わりません。

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 法務省の改正案は、96年と2010年に準備されましたが、国会には提出されませんでした。

 長く政権を担当している自民党の強い反対に加え、民主、社民、国民新党が連立与党だった10年には、国民新党が反対しました。

 野党が議員立法で法案を提出したり、自民党議員からも家庭裁判所の許可で別姓を認める案が浮上したりしたこともありますが、議論は進みませんでした。

 11年には選択的夫婦別姓を求める人たちが訴訟を起こしました。最高裁大法廷は15年、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」として、民法の夫婦同姓の規定は「憲法に違反しない」と判断しました。

 一方、昨年12月には、第5次男女共同参画基本計画の夫婦別姓検討をめぐる記述について、自民党内で反対してきた山谷えり子氏や片山さつき氏などの議員が反発。第4次計画にあった「選択的夫婦別氏制度」の言葉は消え、「戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ」という文言が入りました。

 最高裁は同月、第2次夫婦別姓訴訟の一部を再び大法廷で審理すると決めました。国会での議論が停滞する中、判決が注目されています。(杉原里美)

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 アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●自治体の制度ありがたいが

 同居している恋人が妊娠し、結婚の決断を迫られている。どちらも自身の姓にこだわりがあり、どちらの姓にするのか議論しなくてはならない。馬鹿げている。そもそも夫婦別姓が選択可能なら必要ない議論だ。私たちの住む市は、パートナーシップや事実婚の証明書などを発行する制度ができたようだ。その活用も視野には入れるが、法律に守られるわけではなく、転居すれば無効になる。選択的夫婦別姓が早く法律で認められて欲しい。(兵庫県・30代男性)

●里子と里親、姓は違っても家族

 里子を里親として養育しています。実親の元へ戻ることを前提とした里子は本名を名乗っており、私、連れ合いや実子とも別の姓で地域社会で生活しています。家族の一体感は日常生活の中で育まれ、互いを尊重することで醸成される個人間の信頼が土台と思います。私は、現在の家族(姓が異なるメンバーが同じ空間で暮らす)を作っています。このような家族の形態が法律で選択肢として見える化されることが、一人も取りこぼさない社会を目指す上で、今を生きる私たちに必要だと思います。(東京都・40代女性)

●米国人と結婚、同姓で家族実感

 米国人と日本で結婚。この場合、姓を選べる。夫の姓を名乗ることに抵抗はなかったが、田舎の役場で働いていた当時で、電話などで名乗る時の不具合を考え、少し迷った。米国の義理の両親から「結婚したら多くが夫の姓を選ぶ」と助言された。職場も旧姓使用の規則を作成してくれた。そこで夫の姓を選択した。義理の両親の兄弟から「○○家(夫の名字)にようこそ!」と言われ、夫の家族の一員に加わった実感も湧き、本当に良い選択をしたと思う。家族は同じ姓が良い。(大阪府・40代女性)

●別姓では家族の関係性見えない

 夫婦の姓は同じが望ましい。子供時代、自分の両親が夫婦であること、自分がその子であることを自然と認識でき、自然と築かれた一体感は、やはり姓が同じというのが大きかったように思う。また、社会的にも未成年者とその父母の姓が違っては関係性が見えづらい。事実婚との見分けもあいまいになるのでは? 夫婦別姓では、結婚も離婚も誰にも知られずにやりやすくなる。夫婦、家族という関係性を他者にあいまいにしてしまうという印象です。(滋賀県・50代その他)

●別姓待つのはおかしい?

 今付き合っている人がいて、周りから「結婚するのか?」と聞かれることがよくある。その度に、選択的夫婦別姓が導入されるまで結婚したくないと答える。だが、家族のあり方がおかしくなるだの、女の幸せがどうだの、彼氏に恥をかかせるのかだの言われ、田舎で保守的な考えの人が多いとしてもあきれてしまう。私はそんな理由で名字を変えようとは思わないし変えさせたくもない。選択肢が増えることの何が悪いのだろうか? 早く色んな人の色んな生き方が尊重されるようにアップデートされてほしい。(福岡県・20代女性)

●旧姓使用許されない職場

 医療機関勤務。結婚した際、人事からも医療安全担当者からも旧姓の使用を許可してもらえなかった。医療安全上の理由はわからなくもないので、法改正がない限り旧姓を使用できない。ただ現場では旧姓のまま呼ばれているので安全性は少し疑問。病院によっては旧姓のまま働けるところもあるようだが…。(埼玉県・30代女性)

●姓を諦めきれず婚約相手と別れ

 婚約していた彼と、夫婦別姓がきっかけで別れました。以前から、女性が当たり前のように改姓を強いられるのはおかしいと彼にも話していました。しかし、自分が嫌なことを、彼にも強いたくありませんでした。お互い自分の姓を諦めきれず別れる結果となりました。選択的夫婦別姓であったならば結婚していたと思います。「結婚しなければいい」「事実婚にすればいい」という方もいますが、現状制度として「結婚」をしていないと、日本では子供をもつこともままなりません。少子化をどうにかしたいのであれば、まずここからどうにかすべきだと思います。私は選択的夫婦別姓ができるまで、結婚しないと思います。(愛知県・30代女性)

●別姓には反対、手続き1回だけ

 住んでいる環境が田舎で、夫婦別姓は残念ながら差別の対象。籍を入れず同居し子供をもうけている人は、夫婦別姓希望のためだとしても、周りからしたらシングルという認識。姓は同一のほうがみんなが楽。手続きも1回だけ。別姓だと行政もいろんな手続きが大変でしょ。

(長野県・40代女性)

●親が再婚重ねる子の思い

 子どものころ友人の親が再婚を繰り返すため何度か姓が変わり、その度に「あの家庭また……」などうわさが流れ、周囲も友人の呼び方に困り、友人も自身の姓を憎らしく感じるようになってしまった。色んな姓のあり方があっていい。同姓も別姓も、子に姓を継がせないことも、それぞれが自由に選択できていいし、同姓を選ぶことが旧時代的と言われることもなくなればいい。ひとり親家庭や養子縁組や施設の子どもなど、どの家庭や環境も存在する限り否定されてはいけないように、姓のあり方もそうあってほしいと願う。(大阪府・30代女性)

●家族の絆、同じ姓だからこそ

 夫婦と子供が同じ姓を名乗ることが家族の絆を深めるうえで非常に重要。父母が別々の姓で生きることになったら、家族という小さなまとまりがバラバラになってしまいます。つらい時や困難な時、喜びの時、それぞれのシーンで家族の一体感を味わえるのも、同じ姓を名乗っているからこそ。仕事のうえで結婚前の姓を名乗りたい人は、現在でもそのようにしているし、何の不都合もない。日本の戸籍制度は、世界に誇れるもの。これをなくすようなことは絶対にあってはならない。(埼玉県・60代女性)

●結婚と夫の養子縁組で2度改姓

 結婚で夫の姓に変更。数カ月後に夫が養子縁組で姓を変え、一緒に私もまた変更しました。様々な手続きは本当に面倒。職場で旧姓を使うための手続きで、総務に二度手間をかけ申し訳なかったし、妊娠中だったので産婦人科の診察券の姓を変更したら離婚と思われたのか重たい雰囲気に。夫の母方の祖父の姓を継ぐ人がおらず、夫がそれを残すため祖父と養子縁組したという経緯。別姓制度さえあればこんな面倒は起こっていないのです……。(埼玉県・30代女性)

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 フォーラムアンケートは2015年4月、読者と双方向で考えを深めるフォーラム面を支えるツールとして出発しました。調査対象者を無作為抽出で選ぶ世論調査や賛否を決する投票とは性格を別にし、広く意見を聞くことを目的としています。

 124回目となった「夫婦の姓、どう考えますか?」は、昨年12月24日の初日だけで過去最多回答数に並ぶ5千件近い回答が寄せられ、関心の高さをうかがわせました。

 さらに1月に入り、正月の2日間で1万件近い回答が集中的に届きました。ありがたいことですが、システムに想定を超える負荷がかかり、運行に支障が出かねない状況となりました。また、同一の方からの重複送信がないか、アンケートページでお断りしているような不適切な表現がないか、点検に時間を要する投稿も多く見受けられました。

 こうした事情から、既にいただいた回答を過不足なく公表することを優先し、12日の終了予定を7日に繰り上げさせていただきました。間に合わなかった方は大変失礼いたしました。

 回答傾向をみると、例えば選択的夫婦別姓への賛否を尋ねた質問では、初めは賛成意見が大勢を占め、新年明けての数日間は9割方が反対意見、5日以降は再び賛成が増加、という経過をたどりました。

 フォーラムアンケートの結果は、何かを決める数字ではなく、多様な意見を交わして解決策を考える手がかりとして活用していきます。今後も積極的なご参加をお待ちしています。

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 「アリの一穴になる」。選択的夫婦別姓の導入に反対する人から聞く言葉です。今の戸籍制度を前提にした改正案でも、いったん別姓を認めれば、いずれ戸籍が破壊されかねないというのです。

 「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局の井田奈穂さんは、地方議会に陳情に行き、何人かの自民党議員から「夫婦別姓は女系天皇への議論につながるからできない」と言われたそうです。夫側の姓を継承することと天皇制を重ね合わせているのでしょう。井田さんは「別姓を望む本人の困りごととは全く関係ないのに」とこぼします。今回のアンケートでも、反対する人の中に戸籍への言及が目立ちました。具体的な困りごとが記されている賛成派と対照的です。

 1990年代から取材してきて、市民感覚と国会議員とのずれが以前より広がったと感じています。世論調査では、特に若い世代で賛成が増えています。アンケートには別姓が選べないため結婚をとりやめたという人も。論点をずらさず誠実に向き合うことが求められます。(杉原里美)

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山本晃一も担当しました。アンケート「脱炭素化、あなたは?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。