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 「シオジ森の学校」といっても、決まった校舎や黒板を備えた教室があるわけでも、制服を着た児童・生徒がいるわけでもない。森林面積が9割近い山梨県大月市で子どもから大人まで、豊かな森をフィールドに木登りや生き物探し、沢遊び、苗づくり、工作など思いつく限りの遊びや体験を楽しもうという仕掛け。「森で遊び 森に学び 森を育てる」をモットーに2006年に開校した。初代の小俣正次校長を継いで、16年から2代目校長を務めている。

 「学校は森に心を寄せる、さまざまな専門知識や優れた技術をもったスタッフたちの活動に支えられています」

 林業家、森林インストラクター、動植物研究者、木工作家、写真家、画家、公務員、市民ボランティア……。多彩な人たちが力を発揮し、「私の役割は、そんなみなさんのつなぎ役」と話す。

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 北海道帯広市で生まれた。高校までを過ごし、都留文科大学で学んだ。卒業後、大月、上野原両市の小学校に校長などとして勤めた。

 赴任先では学校林をいかし、子どもたちとフィールドアスレチックをつくり、「生活科」「総合的な学習の時間」での林業体験などに積極的に取り組んだ。大月東小校長のとき、森の学校の設立に参加した。

 シオジはモクセイ科の落葉高木。日本特産で、関東から九州までの沢沿いに自生している。硬質で、かつ弾力性があって加工しやすく、建材や家具、楽器、野球のバットなどにつかわれてきた。

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 大月市の北部、山梨百名山の雁ケ腹摺山(がんがはらすりやま、1874メートル)の登山口になっている大峠北面を源とする沢周辺には、全国的にも珍しいシオジが群生する天然林が残っている。高さ40メートル、幹回り4メートルを超え、樹齢250年以上とみられる巨木もある。

 県は1998年、一帯を自然景観や生態系に配慮した森づくりを進める「森林文化の森」に選定し、「小金沢シオジの森」と命名。富士山が眺められる「眺望ゾーン」、天然林を保護する「自然の森ゾーン」、水源を保全する「緑のダムゾーン」に区分し、自然観察路も整備した。

 ここが森の学校の主要な教室のひとつだ。一年の活動は、初めての人にわかりやすく紹介するオープンキャンパスで始まる。森の話をし、ゲームや工作をする。山の雪が溶け、木々が芽吹くころになると、トレッキングや森林体験活動が晩秋まで続く。「森で遊ぶ楽しさがわからないと、森のすばらしさがわからない」からだ。

 「なんだろう」「どうしてだろう」

 遊んでみると、知りたいことが少しずつ出てくる。虫を探したり、水質検査をしたりして、興味をもったことをさらに知ろうとする。

 サヤエンドウのようなシオジの実が自然落下し、そこから生えてきた実生苗(みしょうなえ)を参加者が家に持ち帰って2年間育て、森にかえして見守るということもした。

 苗は大雨で流されたり、シカに食べられたりした。「木が大きく育つということがいかに大変か」ということを、子どもたちは感じとることができた。

 森の学校は今年、開校15周年を迎える。4月にはオープンキャンパスや記念シンポジウムを予定している。

 「豊かな森に恵まれたこの地域で育ったことに、何よりも誇りを持ってほしい」。森の学校が誕生したときから、スタッフたちの変わらない願いだ。(小渕明洋)

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