辰(たつ)年生まれだから「龍子(りょうこ)」にしよう。
いざ生まれた赤ちゃんの顔を見ると、加賀翠さん(65)の頭から、そんな考えは吹き飛んでしまった。
ポチャッとした、丸い顔。「とても龍なんて雰囲気やないわ」
日本舞踊の師範だった加賀さんは、優雅に舞う「桜子」という役名をふと思い浮かべた。10月6日は、ちょうど秋桜(コスモス)の季節だった。
桜子さんはよちよち歩いては、近所の人に笑いかけた。いつの間にか「チビちゃん」と呼ばれていた。
花好きの優しい子に育った。幼稚園でほかの園児が叱られているのを見て、「先生、そんな怒らんといてよ」となだめた。
「何も言えんくなりましたわ」。後で先生が苦笑いしながら教えてくれた。
師範として忙しい日々を送る母の稽古場の脇で、桜子さんは見よう見まねで踊りを覚えた。
「チビちゃん、センスあるなあ」とうれしかった。4歳で初舞台に上がった。
多忙な加賀さんに代わり、祖父の幸夫さんが遊び相手。幼稚園から帰ると、「じいちゃん」と抱きついた。あの日も、幸夫さんの隣で眠りについた。
1995年1月17日…
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