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【2005年11月30日夕刊文化面】

 「江戸時代に行ってみたい」

 そんな願望から生まれた近未来時代小説『金春屋(こんぱるや)ゴメス』(新潮社)が第17回日本ファンタジーノベル大賞を受けた。

 21世紀半ばの「江戸国」が舞台。日本から独立し、明治維新前そのままに暮らす人々の間で、致死率百%の疫病が発生する。日本から入国を果たした大学生・辰次郎が病の謎を追うのだが……。

 中学生のころから、気がつくと自作キャラクターを頭のなかで転がして、物語を作る癖があった。下手すると2時間以上、考える。就職してからも癖は止まらず、「妄想」の行き場をフィクションに求めて、文章を書き始めた。

 表題の「ゴメス」も、そんな癖の産物だ。容姿は醜悪、体は鏡餅を思わせる女性。現代小説でOLか風俗嬢、占師として登場させようと思ったが、うまくはまらない。このたび、辰次郎に調査を命じる奉行に据えたら、ぴったりきた。

 「ゴメスを軸に、テーマパークのような江戸が浮かびあがってきた。でも、書いてみると、表現力も考証力も足りないことがよくわかりました」

 時代小説を読み始めたのは、3年ほど前。それでも、辰次郎の目を通して描かれる「江戸国」は生き生きとしている。疫病に対して科学的療法を拒むゴメスの言をはじめ、現代社会への風刺も、じわりとにじむ。

 20代半ばに北海道から出てきて、ずっと下町に住んでいる。「その辺のおじさん、おばさんがふと話しかけてきたり、ものをくれたりという独特の付き合いがある。そうした土壌を生んだ江戸への興味が、どんどん増しています」

 受賞後、奉行になる前のゴメスを描いた短編を発表し、次回作も準備中。江戸国はまだまだ広がりそうだ。

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