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 法律では、結婚する2人のどちらかが相手の姓(名字)に合わせ、夫婦が同じ姓になります。望めば結婚後もそれぞれの姓でいられる「選択的夫婦別姓」は久しく検討課題となっています。姓をどうするかは、生き方に大きくかかわります。個人、家族、社会生活を考えたとき、どんな姓が望ましいですか? さらに意見を聞きました。

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●自分が誰かわからなくなった

 母子家庭で育ち、母親が再婚し、中学生の途中で名字が変わった。私自身はなにも変わっていないのになんだか理不尽だなぁと思った記憶があるし、面倒だったり恥ずかしかったりした。私も離婚を経験し、現在は母親が再婚後の名字で生活しているが、名字が変わるたびに面倒な手続きが多いし、自分がいったい誰なのか、わからなくなっている。名字は自分で選択させてほしい。(愛知県・50代女性)

●先祖から子孫へつなぐもの

 今自分が生きているのは、両親のそのまた両親の……と、先祖代々つながる血の絆のお陰である。姓名とは、分かりやすくそれをつなぎ「記録している」もののひとつ。なくすのは簡単だが、なくなればたどれなくなり、個人がバラバラになり、根底にあるアイデンティティーのない浮草になるだろう。今の自分の利便性だけを考えるのは、過去より自分を生かしてくれた存在への敬意と、その先の子孫へつなぐものとしての意識が足りないのではないかと思います。(福岡県・30代女性)

●妻の苦労を目の当たり

 妻が改姓をする際、とても大変で面倒な事務手続きをしているのを目の当たりにした。仕事のため手伝うこともできなかったことを後悔している。同姓にせよというのに、女性のキャリアが消えたり、手続きが大変だったりというデメリットを放置しているのはとても納得できない。(埼玉県・30代男性)

●珍しい名字だがこだわりなし

 私の名字はどちらかと言えば珍しいほう。再確認されることや、家族や親戚の知り合いの方から「もしかして」と関係者かどうか確認されることがあります。不快に思うこともあればうれしく思うことも。ただ、この名字を愛しています。できればこれを残したいが、結婚する相手も珍しい名字なら、自分の名字を優先したいとは思いません。同姓にも別姓にもデメリットがある。片方の姓を選ぶか別姓か、となるぐらいなら、2人で新しい名字を作るのはどうだろうかと思う。(鹿児島県・20代女性)

●仕事の実績、改姓で一から

 結婚で姓が変わった側です。会社を経営していますが、登記上の代表者名を戸籍と同じ姓に変えなければなりませんでした。今の時代、名前が変わるのは実績を手放すも同然。クライアントが名前で検索をして実績を確認し、仕事を依頼するケースが多いからです。そのため、姓を変えればまた一から実績を積み上げ直す苦労を味わいます。

 全員に別姓を強要するわけでもなく、選択できるようにするだけ。どうしてそれができないのでしょう? 筋の通った理由を見たことがありません。支持母体の気持ちにだけすり寄り、それ以外の人間の不利益を顧みようとしない政治はうんざり。(東京都・40代女性)

●LGBT当事者、別姓を望む

 いわゆるLGBT当事者で、既存の制度では夫婦になることはできないのですが、今後もし人権・平等への理解が進んで日本でも同性婚が制度化されたら、私の場合は仕事上の不利益を鑑みて当然、選択的夫婦別姓制度を望むことになるだろうと思います。一緒の姓にしたい人はそうすればよいので、そうしたくない人がしなくて済む選択肢をください。(京都府・30代男性)

●改姓でも夫への従属感なし

 姓の変更による大変さはあまり感じませんでした。それより、子が背負う姓の選択の重荷の方が気になる。社会の構造は世帯ごと。旧姓使用の幅も広がっており、事実婚もあります。その認識を普及させたほうがよいのでは? 姓を変えても夫に従属したような感覚はありません。一つの家族を産み出した感覚です。(滋賀県・40代女性)

●改姓を安請け合いした夫は

 改姓したくないと告げたところ、夫は「自分は姓にアイデンティティーは感じないから」と改姓を安請け合い。いざ婚姻届を出そうとすると案の定抵抗して、親を理由に言い訳を始めました(実際は親には一言も話していなかった上、義母はあっさり応援してくれました)。姓のことでけんかばかりなのに、友人知人は「いい旦那さん」扱いで、母も「改姓してもいいと言ってくれたことに感謝してあなたが改姓したら?」と言い出す状況に直面し、毎日が憂鬱(ゆううつ)でした。結局、姓のチェック欄以外は記入済みの婚姻届を持ったまま事実婚継続中です。(東京都・30代女性)

●別姓の希望わかるが、子に混乱

 独身で結婚の予定もありませんが、結婚するなら同じ姓であるべきだと思います。一体感は重要だし、夫婦別姓は子供に混乱を与えると思う。旧姓を名乗りたい人の気持ちもわかりますが、今や旧姓使用も当たり前に受け入れられている。口座名義やパスポート手続きなど手間はあるかもしれませんが、犯罪に利用されないため必要。中国や韓国の夫婦別姓は明確な嫁差別の文化によるもの。(広島県・30代男性)

名前はパーソナルなもの 秀島徹さん(印章業「はんのひでしま」)

 本業ははんこのデザイナー。認め印の在庫は約10万本あり、「日本一」と言われます。数え方にもよりますが、日本人の姓の種類は十数万以上とされ、そのかなりをカバーしていると思います。

 創業約90年。近くに以前、役場があり、いまでいう司法書士の事務所も多かった。それで父が「届け出などに必要なはんこを忘れて困っている人も多いはず。助けになれば」と開業。はんこ屋はほかにも2軒ほどありました。

 父からはんこ屋を継いだのは40年余り前。なるべく多くの姓に対応したいと品ぞろえを増やすうち、口コミで注文が舞い込むように。一度でも用意した姓は、売れた後もまた在庫を準備しています。珍しい姓ではんこがなくて困っている人や、常連のコレクターらの注文が全国から入ります。その対応を繰り返し、結果的に、いまの品ぞろえになりました。研究者の問い合わせも多く、調査などを重ね、関連資料のファイルもたくさんできました。

 全国に数人~数家族しかいないような珍しい姓も置いています。漫画や映像作品の登場人物の珍しい姓のはんこを求める人は、折々にいますね。人気漫画「鬼滅の刃」に出てくる「竈門(かまど)」「産屋敷(うぶやしき)」といったはんこも以前からあります。話題になった作品だから、読んでみて、在庫を確認した。たとえば、「不死川(しなずがわ)」さんはお会いしたこともあります。僧侶の方だった。「不老不死」と同様に縁起が良い名前です。

 多くの姓の由来には歴史や地理が関係し、明治にできた新しい姓も多い。本家から分家ができる際に、読み方は同じで別の字にしたり、漢字の字体を変えたり。それらが、様々な姓ができた要因と考えられます。

 希少な姓が次第に減っています。姓を新たにつくるのは無理。文化の多様性という意味では惜しいことです。ただ少子化で長男・長女のみの家庭が増えているから、やむを得ないですね。

 事情が似ているのは中国。あの人口で姓は4千種類程度とされ、一人っ子政策の影響で少子化が進み、姓も減っているようです。同じ漢字圏の韓国では姓は300種類程度で、日本とは違い、歴史的・地理的な背景もかかわる氏族を示すなど、かなり権威を持ったものですね。

 好きなアイドルの姓のはんこを買い求める人もいる。「結婚できる可能性はないけど、せめて同じ姓のはんこを手元に置いてお守り代わりにしたい」と。そういう人もいるくらいだから、姓で一体感を持ちたいという気持ちは分かります。

 しかし、姓を含めて名前はパーソナルなもの。選択的夫婦別姓を希望する人がいるのも当然で、自然だと思いますね。

 はんこと言えば、公的手続きや企業の書類で、認め印などをなくす脱はんこの動きもあります。しかし、逆に、反動でニーズが増えると思う。日本人ははんこが大好きだからです。ご朱印ブームなどを見ればわかりますよね。蔵書印、落款などに凝る人も増えている。私も、地域のスタンプラリーなどにボランティアで協力しています。はんこ文化は残っていくと思います。(聞き手・山本晃一)

旧姓使用の拡充が現実的 八木秀次さん(麗沢大学教授・憲法学)

 選択的夫婦別姓に反対する理由は二つあります。一つは、民法を改正しなくても、旧姓使用を拡充すれば多くが解決できるということ。もう一つは、現在の戸籍制度の下では、導入が難しいということです。

 現在は、結婚すると親の戸籍から出て新たに夫婦の戸籍を作り、子どもたちもそこに記載されます。婚姻届を出す際に戸籍筆頭者を決め、家族が共通の姓を名乗るのです。「1戸籍1氏(姓)」ですね。これが別姓になると、「1戸籍2氏(姓)」になり、家族共通の姓がなくなります。姓が「ファミリーネーム」から「個人名」に変わってしまうということです。姓の性格の変更は、同姓を選んだ夫婦にも波及し、国民全体の問題になります。別姓を選びたい人だけの問題ではありません。今の戸籍の仕組みを前提とする限り、法制化は困難なのです。

 片方が姓を変えることに不都合があることは、反対派も理解しています。法制審が答申した25年前と違って、今の賛成派の多くが、戸籍の廃止を求める思想から別姓を主張しているわけでもないでしょう。

 ただ、家名存続を希望する配偶者が別姓を選んでも、子どもの姓をバラバラにしなければ、次の世代まで続きません。きょうだいで姓をバラバラにすることは、国民の大半には受け入れ難いことです。

 今の戸籍でも身分事項欄には旧姓が載っています。それを基に、住民票にも旧姓を併記できるようになりました。不毛な対立をやめて、旧姓が使えない場面を改善していくことが現実的な選択肢だと思います。(聞き手・杉原里美)

選べるほうが生きやすい よねはらうさこさん(イラストレーター)

 ツイッターにマンガ「選択的夫婦別姓について、現行の制度でも違う名字になる家族がいることを忘れないでほしい話」を投稿したら、「いいね!」が約2万件、つきました。

 きっかけは、選択的別姓に反対する国会議員が「祖父母と親、子や孫が別々の姓になり、混乱しかねない」「家族の絆がなくなる」などと主張するのを目にしたことです。そういう家族は普通にいます。そこで、「そういう家族すでに山程いるんです」「絆なくなってません」「大丈夫ですよ」などと訴えました。

 仕事やプライベートで海外や日本在住の外国人の方との交流も多く、マンガではそのこともよく紹介します。外国のまねということではなく、多角的な見方は参考になることも多いはず。いろんな国のやり方から学び、日本に住む私たちにより良い仕組みになればと思います。

 強く反対する人たちは、変化を恐れているのかもしれません。

 もちろん「結婚して相手の姓を名乗りたい」という人は男女を問わずいるでしょうし、それで幸せなら良いのでは。ただ、誰もが「典型的」な生き方をできるわけではなく、そうしなくても認められる社会になってほしい。LGBTQなど家族のあり方も多様。別姓、通称使用など姓の選択も自由なほうが生きやすい社会になると思います。

法案提出し議論がフェア 小池信行さん(元法制審幹事・弁護士)

 法務大臣の諮問機関である法制審議会は、1991年から結婚や家族などに関するさまざまな民法の規定の見直しを始めました。選択的夫婦別氏制も検討課題の一つです。「氏」は姓と同じ意味です。法制審では、導入に積極的な意見が圧倒的に多数でした。別氏夫婦の子の氏も別々でいいという柔軟な意見が主流であったように思います。

 各省庁の法案は、閣議決定を経て国会に提出する前に、与党の審査を受けるという不文律があります。法制審の幹事役であった私は、95年から96年にかけて、延べ200人近くの自民党議員を回って説明しました。すると、予想に反して、反対する意見が大多数だったのです。

 理由は「家族の絆を弱める」「通称使用を認めれば足りる」というのが主なものでした。「夫婦同姓」というルールは、日本社会の醇風美俗(じゅんぷうびぞく)であって、侵すべからざる原則、憲法に先立つ原則なのだという趣旨の意見も少なからずありました。

 このような自民党の動向を踏まえて、法制審の審議の方向も軌道修正しました。選択的夫婦別氏制は導入するが、別氏夫婦の子の氏については現行制度を維持し、夫婦の婚姻の届け出の際に一律に定めるなどの案に切り替えたのです。それでも結局、自民党の反対派の壁は厚く、了承を得ることができないまま、法務省は法案の国会提出を断念したのでした。

 昨年末に政府が男女共同参画基本計画を策定した際にも、自民党内では選択的夫婦別氏制への強い反対意見が続出したと報道で知りました。25年前に私が経験した状況と全く変わっていないのですね。しかし、これでは「なぜ反対なのか」という理由が国民の前に明らかにされないまま、法改正作業がストップした状況が続くことになります。この状況を打開してオープンな議論にするためには、まず民法改正法案を国会に提出し、法務委員会などで賛否両論の審議を重ねることです。そうやって国民の理解を深めた上で形成される世論によって採否を決めるのが、フェアではないかと思います。(聞き手・田中聡子)

別姓 話し合った最適な形 牧野紗弥さん(モデル)

 年内をめどに法律婚から事実婚に切り替え、夫婦別姓にする準備を進めています。結婚して11年。夫の姓を名乗ることにずっと違和感がありました。25歳で結婚した時も自分の姓を名乗りたかったけれど、そのための知識も勇気もありませんでした。

 モデルの仕事は旧姓で続けていますが、重要な書類ほど夫の姓を書かなければならない。出産した時に夫や私の両親が、夫側の家の孫という認識で話していたことも疑問でした。姓を変えたことで夫と対等ではない、所有されている感じになっているのではと思うようになりました。

 夫に「姓を変えるってどういうことか考えたことある?」と聞くと、「一回もない」と。衝撃を受けましたが、それならば想像力を働かせて、ほしいと繰り返し伝えるようになった。10歳の女の子、9歳、5歳の男の子がいます。ジェンダーに無頓着かどうかは家庭環境の影響が大きい。私はジェンダーギャップを「知らない」「気づかない」という環境を家庭から変えたいと思います。自分がどんな母親でありたいか考えた時に、「自立し、しなやかな意思を持ち行動する」母でありたいと思い、家族に別姓を提案しました。

 子どもたちは当初、「法律上は離婚となる」ことへの不安を口にしました。子供たちが離婚に対してネガティブな印象を持っていることに「ここにもアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が潜んでいる!」と思いました。まずは「親が離婚した子どもは幸せじゃないの?」などと離婚についてあれこれ子供たちと話し合いました。そのうえで、離婚は選択肢の一つであること、わが家の場合、法律上は離婚でもこれまでの生活スタイルは何一つ変わらないこと、「ママはアイデンティティーの一つである旧姓を名乗りたい」ことが目的ということ、戸籍の仕組みについても繰り返し説明しました。子供の意見にもじっくり耳を傾けたかったので、一対一になるお風呂の中などで話しました。

 子どもたちには以前から、気持ちや疑問を言語化するように伝えてきました。「ママには話を聞いてもらえる、議論ができる」という信頼関係はあったと思います。

 上の小学生2人にはこれから自分で姓を選んでもらいます。これにはいろんな意見があるとは思いますが、判断する力も、権利もあると思っているからです。照れ屋の9歳長男が「牧野って漢字で書けるようになったよ」と言った時はかわいくて笑いました。どちらを選ぶかはまだ決めていませんが、牧野も名乗ることができると理解したんだと思いました。夏ごろもう一度家族会議を開こうと思っています。そして、子どもが選択したあとも、将来考え方が変わった場合はいつでも対応するつもりです。

 ブログで別姓について悩んでいることを昨年公表したところ、とてもたくさんのダイレクトメールをいただきました。そして今年の初めに紙面で夫婦別姓にすることを表明した反響も大きかったです。夫婦別姓について世間の関心が高いことを感じます。

 姓が違えば家族の絆が薄れると思う方もいらっしゃると思います。でも、自分の考える家族の絆はほかの家族とは違うかもしれない。家族みんなで話し合った結果なら、それがその家族に合う最適な形です。その形は家族の数だけあると思います。

 私は家族は個の集合体だと思っています。自分の考えは家族に共有しますが、押しつけることはしません。子どもにもかみ砕いて説明し、子どもも一人の「人」として尊重する。私も私らしく自立する姿を見せることで、子どもには自分の足で歩いていける大人になってほしい。今回の選択が、その一歩になればいいと願っています。(聞き手・伊木緑)