平和への思い発信 広島・長崎・東京つなぎオンラインで
核兵器を禁じる初の国際規範として22日に発効した核兵器禁止条約。それを記念したイベント「核なき世界へスタート!」が23日、東京、広島、長崎を結んでオンラインで開かれた。
冒頭は、国連での条約採択に尽力した海外の関係者のメッセージが流された。条約交渉会議で議長を務めたコスタリカのエレイン・ホワイト大使やカナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(89)らが登場。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、日本の視聴者にこう呼びかけた。「これは核兵器廃絶へのスタート地点。日本にとって次の課題は、日本政府を条約に参加させること。それが達成されれば世界の運動に大きな影響をもたらす」
湯崎英彦知事や松井一実・広島市長も参加した広島会場からは、若者たちがそれぞれの「平和活動」について発表。広島市立舟入高2年で演劇部の高橋遥香さん(16)は、昨年11月に上演した原爆劇で脚本を担当した体験を報告した。原爆ドームとその保存活動に取り組んだ人々を描いた内容で、被爆者の高齢化で「物言わぬ証人」としての被爆建物の価値は高まる中、今まさに保存・解体問題で揺れている被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」について考えるきっかけになればとの思いで制作したと語った。「同じ空気を共有できる舞台演劇では、演じる側も見る側も、原爆ドームの保存運動に取り組んだ人々の思いとその時代を疑似体験できる」
NPO法人「ANT-Hiroshima」のインターンで広島大4年の赤井理子さん(21)は、被爆者が日常生活で悲惨な体験を思い出す瞬間をイラストにしてインスタグラムで発信しており、その中で抱いた思いを語った。被爆者の岡田恵美子さん(84)から、夕焼けを見ると炎から逃げた当時を思い出すという証言を聞き、夕焼けをイラストに描いた体験から、「証言は今の日常が当たり前ではないという想像力を与えてくれるもの。76年前の記憶と私の暮らしをつなげようと表現している」と述べた。
広島市立基町高3年の原田真日瑠(まひる)さん(18)は、被爆証言をもとに当時の様子を描く「原爆の絵」の制作について発表した。赤井さんの取り組みについて「『相手の立場に立って描く』という言葉が印象的で、その姿勢は原爆の絵を描く時にも心掛けたい。絵を描くという表現方法は一緒だが、今を生きる日常と結びつける視点は新鮮だった」と話した。
湯崎知事は「発効は決してゴールではない。廃絶に向けて一緒に一歩一歩進んでいこう」と呼びかけた。松井市長は「条約は核廃絶の重要な原動力になる。自分たちに何ができるのか考える機会にしよう」と語った。
長崎会場では、中村桂子・長崎大核兵器廃絶研究センター准教授を進行役に、田上富久・長崎市長と「ジャパネットたかた」創業者の高田明さんが「いかそう核兵器禁止条約」のテーマで対談した。
田上さんは「条約を応援してくれる人を増やすのが市民社会の役割の一つ。そこはみんなで頑張れる」として、多くの人が条約について口にする空気の必要性を語った。「被爆体験を伝えることが平和教育だという長い歴史があった。今はもっと広げて違う考え方の人と共生するところから入る平和教育がある。違うことがけんかの原因になるのではなく、違うことでもっとお互い仲良くなれる」と、多様性の時代の平和教育のあり方について語った。
高田さんは、被爆地の長崎ですら条約を知らない人が多い現状を指摘。「『伝えた』と『伝わった』は違う。知らない人はいないという世界を作っていく」と述べた。条約の存在を知ってもらうための方策として、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の周知のための「アイス・バケツ・チャレンジ」に多くの著名人が参加したことを例に、「全く違うところからのアプローチが必要」と訴えた。
主催団体の一つ、「核兵器廃絶日本NGO連絡会」のホームページ(https://nuclearabolitionjpn.wordpress.com/)で視聴できる。(比嘉展玖、宮崎園子)
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