先入観を問うヴィトン、皮肉込めたヨウジ パリ・メンズ

ファッション

編集委員・高橋牧子、神宮桃子
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 2021年秋冬パリ・メンズコレクションは19日から24日まで、新型コロナの影響からデジタルで配信された。世界的なコロナ禍のもと、独自の創造性やメッセージを織り込みながらも、安心感のあるスタンダードなスタイルを発表するブランドが目立った。

拡大する写真・図版ルイ・ヴィトンの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 ルイ・ヴィトンは、物語仕立ての映像で、メッセージ性の強い作品をみせた。

 モデルたちは様々な職業の人物に扮し、その属性において一見典型的なスタイルだが、どこかに違和感がある。「セールスマン」は濃い色のダブルのスーツで正統派だが、ボタンはおもちゃの飛行機。パンツは極太で裾が引きずるほど長い。「放浪者」は、身体に巻いた民族調の布がブランドのロゴ入りで、金のバックル付きベルトがモダン。職業や肌の色、性差や年齢などによって生じる人の先入観や偏見を、ファッションを通して変えていこうとする試みだという。

 ヨウジヤマモトも、持ち前の脱構築的な作風に、皮肉や社会的なメッセージを込めた文字を取り入れた。いわば、優雅なパンクスタイル。スーツはゆったりとして、いつにも増して布の流れが美しい。色は黒で、生地はしなやか。そんな服に「実存主義」や動物の権利に関する英字の言葉が並ぶ。ネクタイには日本語で「引責辞任」とあった。

拡大する写真・図版ヨウジヤマモトの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 ベーシックなデザインのなかに、ラグジュアリーブランドらしい凝った生地や仕立てを強調したブランドも。

 現代画家ピーター・ドイグと協業し、手の込んだ美を見せたのがディオールだ。

拡大する写真・図版ディオールの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 儀式用の服装から着想を得た、立ち襟にくるみボタンのジャケットなどが目を引く。華麗な刺繡(ししゅう)のコートやシャツ、鮮やかな色彩のセーター。一つ一つが芸術のようだが、程良くゆとりのあるシルエットやシンプルなスタイリングで、奇抜にはならない。ジップアップのアウターなどカジュアルなアイテムとも組み合わせ、現代的なバランスにまとめていた。

 エルメスは、快適でエレガントな装いを提案した。上質な素材を使いながら、ウエストがひものパンツなど着心地の良さも追求し、気負わないスタイルだ。ポケットをななめにずらして配置したり、細かいステッチをアクセントにしたり、遊び心をしのばせた。

拡大する写真・図版エルメスの2021年秋冬メンズコレクション(C)Filippo Fior

 ジル・サンダーはシンプルなジャケットやニットに独特の量感を盛り込んだ。グレーやブルーの明るい色味や首回りのアクセントで、今季らしい柔らかなニュアンスを加えている。

拡大する写真・図版ジル・サンダーの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 「変わらないもの、変わり続けるもの」を掲げたのは、オム・プリッセ・イッセイミヤケ。スタンダードなものに目を向けながら、新たな素材やデザインを加えて進化を試みた。創始者の三宅一生から継承するプリーツ加工を機械で施す場面から始まる映像を発表し、服作りの原点に立ち返るという姿勢を印象づけた。白シャツに黒ベスト、黒パンツといったクラシックな組み合わせのほか、アフリカの籠をモチーフにした躍動的な柄のパンツや、シャープな印象の立ち襟のコートなどを披露。モデルが走ったりジャンプしたりと、動きやすく日常になじむ服であることが伝わってくる。

拡大する写真・図版オム・プリッセ・イッセイミヤケの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 ロエベは、美術家や作家、詩人として活動したアメリカのジョー・ブレイナードの作品をとり入れた。赤や黄、紫など色鮮やかなパンジーを大胆に表現したニットやパンツは、ファッションの楽しさにあふれている。Tシャツやセーターを、3枚ずつずらして重ねて1着に。ベーシックなアイテムが、あっと驚くような作品に変身している。デザイナーのジョナサン・アンダーソンは、「人々に夢を見せ、楽しませるような服を作りたい」と話した。

拡大する写真・図版ロエベの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 日本の独立系の若手ブランドも健闘した。なかでもさえていたのは、神奈川県のスクラップ工場の屋外でショーを開催したダブレット。ショベルカーが地響きを立てて古い自動車や事務机などを潰す中、子供服のように可愛らしいロンパースやぬいぐるみ付きのニットが並んだ。

拡大する写真・図版ダブレットの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 モデルは後ろ向きに歩き、デジタル公開時には映像を逆回しに。デザイナーの井野将之は、コロナ禍の外出自粛の中で自分の幼少期を回想し、祖父母らの言葉「もったいない」を思い出したという。素材は古着や廃材を再利用した。物質社会への反省と再生への希望。井野は「ここからまた未来に向けて歩き出していくという思いを込めた」。

 カラーもモデルが観客の前で歩くショーを都内で開いた。シンプルなウールのコートにメッシュ地など趣が異なる素材を組み合わせた。

拡大する写真・図版カラーの2021年秋冬メンズコレクション=ブランド提供

 コロナ禍により、パリ・メンズがデジタルで新作を発表するのは、昨年夏に続いて2回目。それまでのように主に業界人だけでなく、世界中の一般の生活者がネットで気軽に見られるようになった。不慣れのせいかイメージ優先だった前回とは違い、今回は服そのものをきちんと見せようとする姿勢が目立った。並外れた斬新さよりも「新しいスタンダード」の提案や、明るさを希求するような映像表現も、より多くの共感を目指したものなのだと思う。(編集委員・高橋牧子、神宮桃子)

写真はいずれもブランド提供