マラソンの再開を願うアイドル犬 特技は「バンバン」
四万十川沿いの100キロを走るコースなどで知られる「四万十川ウルトラマラソン」もコロナ禍で昨秋は中止となり、ランナーに人気の地元の宿では、アイドル犬が再開を待ちわびている。可愛い耳と小さな目をした雌の「連(れん)」。過酷なレースに挑戦するランナーを特技でいやしてきた。
連は、高知県四万十市の「旅の宿 寿吉」で暮らす。13年前、経営者の花岡謙介さん(72)と妻のあけみさん(67)がペットショップで生まれたばかりのチワプーの子犬に「瞳がかわいい」と目をとめた。連泊客が増えることを願って「連」と名付けた。
夫妻と遊んだり甘えたりするうちに、連は次々と技を覚えた。あけみさんが「お手」と手を差し出すと、尻尾を振りながら手を合わせる。棒を跳び越えたり、クルクル回転をしたりする。あけみさんが「バンバン」と叫ぶと、体を転がして死んだふりをする。
宿は四万十川に架かる赤鉄橋からつながる県道沿いにある。100キロと60キロを走破する四万十川ウルトラマラソンのコース近くで、毎年、東京や大阪など全国から約40人のランナーが宿泊する。懸命に技を繰り出す連はたちまち人気者になった。
居間や部屋でスタート前の選手の緊張をほぐし、癒やすようになった。お客のボストンバッグの中で寝ることもあった。窓からゴールを目指すランナーを応援し、大会後は土佐くろしお鉄道の中村駅で見送る。
あけみさんは「年に1回、連に会うことを楽しみに来てくれるリピーターのお客さんも増えました」と話す。だが、昨年10月の大会は中止に。連も元気がなくなった。
体長約50センチ、体重5キロの連はもう14歳。高齢だ。技の練習に余念がないが、ジャンプは小さくなった。夫妻は「連も今年は大会が開かれることを期待しています」と話している。(笠原雅俊)