川口敦子
「またねー、またねー」
娘のすずちゃん(11)が隣でそう言うのを聞いて、母の美奈子さん(53)は驚いた。横断歩道の先で、かつて保育園で仲良しだった友だちが笑って手を振る。それを見て、すずちゃんもブンブン手を振っていた。昨秋のことだ。
竹山鈴乃さん。すずちゃんは、静岡県沼津市の特別支援学校に通う小学5年の女の子。重度の知的障害がある自閉症で「お菓子」とか「ちょうだい」など、30語ほどしか話せない。娘が自分から「またね」と言うのを美奈子さんは初めて聞いた。「やっぱり――」。保育園に通っていたころを思い出した。
すずちゃんを産んでから、美奈子さんは一度だって障害を恥ずかしいと思ったことはない。でも正社員として働きながら、娘の療育やリハビリなどに追われる生活で、わずかな時間も惜しかった。
そんなとき、友人や地域の人に「障害じゃなくて個性、子どもはみんな同じ」と言われても、何か腑(ふ)に落ちなかった。「こんなに多動で過敏で、みんなとは違うよね」。気配りゆえとはわかりながら、距離を置かれているようで寂しく、同じでなきゃいけないのかなあと、もやもやした。
すずちゃんが保育園の年長に進級し、ゆり組になった行き帰りでのことだ。
「ねえ、すずちゃんママ。すず…
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朝日新聞社会部