論文不正、先進医療の臨床研究を中止 国循・阪大が発表

瀬川茂子、杉浦奈実
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 国立循環器病研究センター国循大阪府吹田市)と大阪大は30日、所属していた医師らが発表した論文2本に捏造(ねつぞう)、改ざんがあったと発表した。そのうち1本は、心臓病の薬に肺がん転移を抑える効果があるかを調べる臨床研究の根拠になっていたため、阪大は臨床研究を中止することを決めた。

 国循と阪大は、以前所属していた野尻崇医師らの論文21本について告発があったことから調査委員会を設け、うち5本で捏造や改ざんを認定したと昨年8月に公表。21本とは別の5論文も追加で調べていた。

 今回、捏造・改ざんと認定された論文の一つは、2015年に米科学アカデミー紀要に発表された。肺がんの手術の際に心臓病治療薬であるホルモン「hANP」を使うと、がんの転移を防げるとしていた。

 調査委員会は、この論文の図や表について、実験データが元データと違うことを見つけ、故意による不正と認定した。もう1本の論文も捏造、改ざんと認定した。野尻氏はミスで故意ではないとして不正を認めていないという。

 論文2本の責任著者である寒川(かんがわ)賢治元国循研究所長について、調査委員会は不正行為にはかかわっていないが、管理責任があると判断した。寒川氏は、共著者と相談して論文を取り下げることを検討している。

 論文を根拠の一つとして、hANPを使う臨床研究が、公的医療保険がきく診療と併用できる「先進医療」として15年に始まった。10施設で160人の肺がん患者が手術時にhANPの注射を受けた。

 今回の調査結果を受け、阪大は科学的根拠が明らかでない臨床研究だったと判断し、中止を決めた。臨床研究と因果関係が完全に否定できない健康被害が10件報告された。病院は研究に参加した患者に謝罪し、健康観察を続ける。17年の告発から中止の判断まで時間がかかったことをふまえ、阪大は、不正が確定する前でも、適切に対応できるようにするとした。阪大の土岐(どき)祐一郎付属病院長は、「研究者人生をかけて立案した研究を止めるのは重い問題だが、疑いの段階でも、情報提供してもらい、止めるべきか検討する体制にしたい」と話した。瀬川茂子、杉浦奈実)

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 〈先進医療〉公的医療保険の対象外で患者の全額自己負担となる医療技術について、保険診療との併用を認める制度。厚生労働省が一定の施設基準を設定し、基準を満たした医療機関の届け出を認める。将来、保険診療が認められることをめざし、有効性や安全性を検証する臨床研究が、先進医療になることがある。