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 次世代のクリーンエネルギーといわれる水素。福島県浪江町に世界最大級の水素製造装置を備える「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R)が完成して3月で1年になる。復興の柱として、新エネルギーの先進地を目指す県の構想にも欠かせない施設だが、地元がどう生かすかが課題だ。

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 浪江町の海岸近くにある「棚塩産業団地」。FH2Rは、かつて東北電力が浪江・小高原発を計画していた地で開所した。

 敷地は東京ドーム5個分に相当する22万平方メートル。その8割が太陽光発電のパネルで埋め尽くされている。水素の製造装置がある建屋は高さ約12メートルの鉄骨造りで水素は太陽光の電気で水を電気分解して取り出すという。思い浮かぶのは通電性を高めた水に電極を入れ、電気を通すと水素と酸素が発生する化学の実験。非公開の建屋内には、その大型装置があるらしい。

 水素の製造量は1日当たり約3万立方メートル。これで電気をつくれば約150世帯を1カ月賄えるという。原料の水は浪江町の水道水というから、まさに「浪江産水素」だ。この水素はJヴィレッジ(楢葉町、広野町)や道の駅なみえ(浪江町)、あづま総合運動公園(福島市)の燃料電池に研究の一環として無償で提供される。

 燃料電池といっても実は発電装置だ。電気分解で出来るのは水素と酸素。逆に水素と酸素を反応させれば電気が取り出せ、この仕組みは、燃料電池車(FCV)にも生かされている。

 施設を管理する国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の統括研究員大平英二さん(52)によると、浪江産水素は、東京五輪パラリンピックでも使われることになっていた。聖火ランナーのトーチや会場の聖火台、関係者のFCV用が想定されたが、新型コロナウイルスの影響で大会は延期され、見通せなくなってしまったという。

 FH2Rは、再生可能エネルギーを有効に活用する方法を探っている。太陽光や風力の発電は気象条件で変わり、電力会社の送電容量の制約という問題もある。使い切れない電力が生じた場合、その電力を使っていつでも電気に変えられる水素を作れば、電力の「需給調整」にも役立てられるという。

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 水素が注目されるのは、二酸化炭素を排出しないクリーンさに加え、運搬や保管もできることだ。太陽光などの電力で電気分解してつくれば、製造から利用まで全く二酸化炭素を出さず、原料の水が無尽蔵にあるのも魅力だ。

 国は2017年に「水素基本戦略」を策定した。水素エネルギーを中心とした水素社会の実現に向けて世界をリードするとし、海外依存度の高いエネルギーの自給率向上や関連技術の開発に力を入れる。

 菅義偉首相は昨年10月の所信表明演説で、50年に二酸化炭素などの温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」の実現をめざすと宣言した。

 しかし、課題は少なくない。水素利用の牽引(けんいん)役になるFCVは、高価な車両価格やガソリンスタンドに相当する水素ステーションの少なさがネック。水素の製造コストの引き下げが必須で、国は水素1立方メートルあたり100円の販売価格を20円まで引き下げる目標を掲げている。

 「鶏が先か卵が先か」のような話で、水素ステーションが増えるには、利用する燃料車や施設が増えなければならない。増えれば大量生産でコストも下がるかもしれないが、今は利用の急増が見込めず、国などが補助金で利用拡大を支援する。FCVの購入では車種によって国と県から最大約300万円の給付があり、水素ステーションの開設でも補助制度が設けられている。

 原発事故で大きな被害を受けた地元の浪江町は、水素社会の実現を復興の柱にすえる。「ゼロカーボンシティ」の実現を目指し、供給網などの調査、実証を経て浪江産水素の地産地消を進めたい考えだ。担当の町産業振興課は「原子力に代わる新たなエネルギーで町を再生させたい」と期待を寄せる。

 NEDOの大平さんは「FH2Rは雇用を創出するものではないが、何らかの形で内部を公開できれば、視察に来る人と町との交流人口も増えるかもしれない」と間接的な支援も思い描く。そして「世界が注目する施設が、ここにあることを地元の子どもたちに知ってほしい」と願う。(荒海謙一)

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