横浜「寿町」の人々をめぐる14の物語を出版

土屋香乃子
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 【神奈川】「ドヤ」と呼ばれる簡易宿泊所が立ち並び、かつては日雇い労働者が集った横浜市中区の寿町。住人の高齢化が進み、今では「福祉の街」と呼ばれるようになった街の人間模様を描いた本「寿町のひとびと」が出版された。この街に暮らす人たちと、それを支える人たちを、ノンフィクション作家の山田清機さん(57)=茅ケ崎市=が14の物語にまとめた。

 ギャンブルにのめり込み、流浪の末に街にたどり着いた畳職人。寿町の子どもたちと30年以上向き合い続ける学童指導員。ホームレスの見回りを30年以上続ける男性。ドヤの帳場さんと、彼女を取り巻く住人の「親衛隊」――。型破りなエピソードは時折くすりと笑いを誘うが、人々の物語は社会や人間のあり方に重い問いを投げかける。

 山田さんが取材を始めたのは6年前。寿町にふらりと立ち寄ったのがきっかけだった。集積場でごみをあさる人々や、賭博のノミ行為を見かけて衝撃を受けた。住人に話を聞こうと取材を始めると、「あの人の話も聞いた方がいい」と次々に紹介を受け、支援に携わる人々も取材するように。町内の診療所や、アルコール依存者の支援団体を立ち上げた人など、この街で生きる様々な人に取材した。

 山田さん自身は、「自分でものを書きたい」と出版社の編集者を辞めてフリーになった。仕事が入らず困窮していた時期もあり、貧困問題は我がことと感じていたという。

 取材を進めるうち、街の人々に「お前はどちら側の人間なのか」と問われているように感じ、悩んだ。

 「物書きという仕事もあり、学歴もあり、(寿町の)人の話を商品として売ろうとしている。どうしようもなく自分がうさんくさく思えて」

 その答えを山田さんは、寿町の人々の支援に長年携わったある牧師の言葉に見いだしたという。

 本書に登場する牧師はこう説く。

 「ある時、ホームレスの人のことを本当には理解することなどできないのだと自分の限界を認めて、『その通り、私は噓(うそ)くさい人間です』と言えた時、私は彼らと通じ合えるのを感じたのです」

 物書きであり、当事者を支援することはできない。だが牧師の言葉に、「名も無き人たちの記録を作ることは出来るかもしれない」と思うようになった。

 競争や効率化が進む現代社会にあって、寿町では、それとは異なる価値観で人々がつながりあっていると感じる。

 「そこに触れることで、自分の首を絞めてしまうような狭い考えや価値観を変えていけるかも知れない。もし読んだ人が共感してくれたらうれしいですね」と山田さんは言った。

 朝日新聞出版刊、368ページ。税込み1980円。(土屋香乃子)