「敵」から防空システム買うトルコ 国際政治は複雑怪奇

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荒ちひろ
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 ロシアからの兵器購入を理由に、米トランプ前政権は昨年12月、トルコに対して制裁措置をとりました。米、トルコともに北大西洋条約機構(NATO)に加盟しており、同盟国への制裁は異例です。事の発端となったロシアの「地対空ミサイルシステムS400」とは、いったいどんな兵器なのでしょうか。NATO加盟国でありながらロシア製兵器の購入に踏み切ったトルコの意図や、ロシアの狙いとは――? ロシアの安全保障が専門で軍事に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠・特任助教に聞きました。

――S400とはどんな兵器ですか?

 「ミサイルシステム」の名前の通り、ミサイルだけではなく、レーダーや指揮車を含めたパッケージを指します。「地対空」とは、空からの攻撃や空中に浮かんでいる様々なものを地上からたたくこと。つまり、地上から攻撃するタイプの防空システムのことです。

拡大する写真・図版ロシアの地対空ミサイルシステムS400=ロイター

 ソ連時代につくられたS300の改良版で、1990年代に開発されました。このころの防空システムの最大の目標は、レーダーで見つけにくいステルス戦闘機や、低空を縫いながら飛ぶために追跡が難しい「トマホーク」などの巡航ミサイルをはじめ、ハイテク兵器でいっぺんに破壊してくる米国の空爆から自国を守ることでした。S400は、航空機や巡航ミサイル、弾道ミサイルなど、標的によって様々なタイプのミサイルを撃つことができます。

 ただ、空爆を防ぐためになるべく自陣から遠いところで敵をたたく、というのは防空の基本で、特段新しいことではありません。時代や地域によって重点は変わりますが、普遍的な防空システムの一つと言えます。米国の「パトリオット」、イスラエルの「アロー」と並ぶロシアの最新版がS400です。国の状況によって求めるものや開発思想は異なりますが、いずれも基本的な仕組みは同じです。

――S400はどんな仕組みで、何ができるのでしょうか?

 日本の自衛隊も導入している米国のパトリオットは、航空機やヘリコプターなどが対象の「パトリオット2(PAC2)」と、弾道ミサイルが対象の「パトリオット3(PAC3)」のように、バージョンで用途が全く異なります。対してS400は、発射するミサイルを取り換えることで、短い距離から最長約400キロまで幅広い範囲を守ることができます。

――具体的にはどんな構成ですか?

 S400の仕組みとしては、まず半径600キロほどの様々な目標を感知できる「捜索レーダー(図①)」が周辺を探ります。レーダーの情報から敵を特定し、攻撃命令を出すのが「コマンドビークル(指揮車/図②)」です。攻撃命令を受けて「管制レーダー(図③)」が目標を追尾し、「移動式発射機(図④)」にミサイル発射命令を出します。

拡大する写真・図版S400の仕組み

 1個大隊に、管制レーダー1台と移動式発射機8両が基本セットです。1両にミサイル4発が搭載されているので計32発のミサイルを撃つことができ、再装塡(そうてん)も可能です。指揮車はこうした大隊を最大で6個指揮する能力を持っています。実際のロシア軍では、一つの指揮車と捜索レーダーが連隊司令部として2~3個大隊を指揮し、1個連隊を構成します。

 S400は、首都モスクワやサンクトペテルブルクの周りにたくさん配備されています。モスクワの周りには5個連隊も配備されていて、これほどびっちりハリネズミのように守られている都市は、ニューヨークやロンドン、東京など世界のほかの都市と比べても、珍しいです。ほかにも原子力潜水艦の基地があるカムチャツカや、シリア国内のロシア軍基地などにも配備されています。政治や経済、軍事的に重要な場所を守るように配置されています。S400は高価で大きい兵器で、最後方での守りになります。より前線に近い場所の兵器や、味方の戦闘機などからの情報と組み合わせ、複合的な防空システムをなしています。

兵器売却、国際政治のツールに

――今回のS400に関するロシアやトルコをめぐる動きには、どんな狙いがありますか?

 ロシアからすれば、S400…

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