第20回第一志望落ちてもキリンの道へ?解剖学者・郡司芽久さん

聞き手・吉川一樹
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コロナ禍の中、入試に望む受験生たちに、各界の先輩たちからのメッセージをお届けします。

受験する君へ 解剖学者・郡司芽久さん

 2008年に東京大理科2類を受験し、現役で合格しました。受験から2カ月ほど後に開示された得点を見て、なんか見覚えのある数字だなあ、と。合格最低点と1桁まで同じで、0・16点差だったんです。震えました。受験でよく言われることですが、1点以内のところにたくさんの人がいるんだと思います。

 ぐんじ・めぐ 1989年、東京都生まれ。東京大大学院農学生命科学研究科博士課程修了。現在、筑波大システム情報系研究員。専門は解剖学、形態学。著書に「キリン解剖記」。

 早稲田大と東京理科大は物理学科を受験していて、国立の後期は北海道大獣医学部に出願していました。東大に落ちて別の大学に行っていたら、どういう人生になったんだろう、と考えることは結構ありました。ただ、解剖学の指導教員になった先生は「人生の選択が変わっても、結局はそんなに人生は大きく変わらないと思う」とおっしゃっていました。たしかに、大学は違ったとしても、解剖学に出会ったら、すごく魅力を感じて、多少紆余(うよ)曲折しながらも同じ道に行ってたのかな、とも思いますね。

 物心つく前からキリンの絵を描いたり、キリンと一緒に写真を撮ってもらったりしていました。物心がついてからは他の動物も好きになり、何か動物に関わる仕事がしたいと思っていました。具体的にキリンの研究を志したのは、大学入学後の新入生歓迎のシンポジウムで、大学の先生方にいろんな研究のお話を聞いたのがきっかけです。研究者のみなさんがすごく楽しそうで。私にとっては実力以上の環境に行くことができたという感覚が強かったので、この環境の中で自分を試してみたいと思ったんです。

 受験を通して身につけたこととして一番大きいのは、自分のメンタルをコントロールする、ということ。受験は長期戦で、1年、2年のタイムスパンで目標に向かって取り組むものです。気持ちの浮き沈みが出てきてしまうので、気持ちが上向きになるようなこと、例えばこの音楽を聴く、この人の本を読む、というようなことを自分で知って、ポジティブな気持ちで試験に臨めるようにしました。そうした経験はその後もすごく役に立ったと思いますね。

 塾の物理の先生がプライベートでロックバンドをやっていて、仲の良い生徒たちは、先生が自分たちの演奏を録音したCDをもらっていました。私は受験の日にそのCDを聴くのがルーティンになって、気持ちを高めることができました。

 あとは「寝る」ことを心がけていましたね。今でも意識しています。睡眠不足だとマイナス思考に行きがちです。気持ちが落ち込んでいるな、と思ったときには、とりあえずいつもよりよく寝るようにしていました。後悔に近いマイナス思考はほとんど何も生みません。事実がどうであれ、前向きに、ポジティブにトライすることはとても大事です。

 東大入試では、1日目の数学は「平均点以上取れたかな」という感触で、2日目の理科も、前日失敗しなかったから今日もやれるはず、と臨みました。入学後に開示された得点を見たら、実際には数学は取れていませんでしたが、理科はすごく点数が良くてギリギリ滑り込めました。数学の手応えは完全なる勘違いだったのですが、勘違いできるくらいポジティブな気持ちでいられたことが、うまくいった理由かなと思います。

 何より大切なのは、健康です。コロナ禍では、その大切さはさらに増していると思います。私は解剖学を勉強していますが、体って、ただ生きるだけのために、いろんな器官が、すごく複雑なことをやっているんだと分かってきます。例えば呼吸するとか、心臓が血液を送るとか、無意識で常に起きていることが、生きていくのにものすごく大事で複雑だということが分かる。自分の命を回すために、こんなに複雑な現象が毎日体の中で起きているんだと知ると、自分の体に対して敬意を持てます。自分の体に興味を持ったり敬意を払ったりすることが、健康に気を配る第一歩かと思います。

 受験生にもう一つメッセージを。私は受験生の頃、試験会場に行くと、自分より賢そうな人や難しそうな参考書を持っている人が目についてしまい、萎縮しがちでした。そういうことで実力を発揮できないのは嫌だと塾の数学の先生に相談したとき、先生に言われたのは、「受験の当日に会う人は、ライバルじゃなくて4月からの友だち候補なんだよ」ということ。いずれ一緒に授業を受けたり、遊んだりできるのかなあと思うことで、当日気が楽になりました。思い出深いアドバイスです。周りが気になって緊張しちゃう人は、周りを「友だち候補」だと思えば、少し肩の力が抜けるんじゃないでしょうか。(聞き手・吉川一樹)

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〈ぐんじ・めぐ〉1989年、東京都生まれ。東京大大学院農学生命科学研究科博士課程修了。現在、筑波大システム情報系研究員。専門は解剖学、形態学。著書に「キリン解剖記」。

連載受験する君へ(全28回)

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