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 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領(当時)の名誉を記事で傷つけたとして産経新聞の元ソウル支局長が在宅起訴され、その後に無罪判決が確定した裁判をめぐり、韓国国会は4日、判決に介入した疑惑が取りざたされる判事の弾劾(だんがい)訴追案を与党の賛成多数で可決した。韓国で初となる裁判官の弾劾訴追は、司法トップにも飛び火するスキャンダルに発展している。

 訴追されたのは、釜山高裁の林成根(イムソングン)部長判事で、元支局長の裁判が行われていた2015年当時は、ソウル中央地裁の刑事首席部長判事だった。弾劾を求めたのは、朴氏ら保守勢力と対立する進歩(革新)系の与党「共に民主党」の議員ら。弾劾案は、林判事が朴政権の意向を受け、元支局長が書いた記事の内容は虚偽だったと判決文に盛り込むよう公判の担当裁判長に要請したとしている。

 林判事はこの裁判介入疑惑などで、19年に職権乱用罪で在宅起訴され、昨年2月の一審判決で無罪となっていた。しかし、国会で弾劾案が可決されたことで、今後は憲法裁判所で弾劾の是非が審理される。

 この問題をめぐっては、別の騒動も起きている。林判事が昨年5月に辞表を提出した際、面談した韓国大法院(最高裁)の金命洙(キムミョンス)院長が、「辞表を受理すれば、国会で弾劾の論議ができなくなるじゃないか」などと述べ、辞表の受理を拒んでいたと主要紙の朝鮮日報が3日に報道。政権与党の意向を、三権分立の一角を担う司法のトップが忖度(そんたく)していたという特報だった。

 金院長は法曹界では代表的な革新系判事として知られ、文在寅(ムンジェイン)大統領の登用で17年に就任。18年秋には日本企業に元徴用工らへの賠償を命じ、日本政府内には「日韓関係を悪化させた張本人」と批判する向きも少なくない。

 金院長は報道後、すぐに「そんなことを言っていない」と否定した。ところが、4日に林判事が面談時に録音していた音声ファイルを公開すると一転、事実を認め、謝罪に追い込まれた。

 韓国の法曹界からは「韓国の三権分立は名ばかりだ。大法院長のうそは司法への信頼を揺るがす」(法曹関係者)との懸念が広がる。

 林判事は今月末で定年退官の予定で、「罷免が決まれば退職金は支給されない。政権与党による見せしめだ」(韓国政界の関係者)との声も聞かれる。保守系の最大野党「国民の力」も、「司法の独立を傷つけた。むしろ、弾劾されなければならないのは金院長だ」(党幹部)などと強く批判している。(ソウル=鈴木拓也)