第2回ウソとも言い切れない巨人伝説 進撃の日田、隣町の空想
「ウルトラマン」や「エヴァンゲリオン」の映画、完結が近いマンガ「進撃の巨人」など、今年は大きな人間「巨人」がモチーフのSFやファンタジーが目白押しです。
ところで、人はなぜ、巨人の物語が好きなのでしょうか。神話の時代から活躍し、現在も巨人がつくったと言われる山や池が各地にあります。巨人はどんなときに現れたのか。今もどこかに巨人はいるのか。「巨人のあしあと」が残る土地を訪ねます。
拡大するマンガ「進撃の巨人」の銅像ができた大山ダム。「進撃の日田」ののぼりが何本も立っている=2020年11月、大分県日田市、真野啓太撮影
人気マンガ「進撃の巨人」に登場する巨人よりもさらに大きな巨人が、作者の諫山創(はじめ)さんの故郷の近くにいたらしい。巨木を切り倒した、木こりの巨人の伝説だ。お話の最後には、巨体に負けない、壮大なオチが待っていました。
諫山さんは大分県の内陸部、日田市の出身。「進撃」ブームに乗り、日田市では「進撃の日田」と銘打って、町おこしをしている。昨秋には市内のダムに、マンガの登場人物の銅像ができた。ダムの堤体を、巨人から人類を守る「壁」に見立て、物語の序盤の場面を再現している。
本稿の舞台は日田市の隣、玖珠(くす)町。巨人の働きでできたと語り継がれる山がある。盆地からぽっこり飛び出した「伐株山(きりかぶさん)」だ。ふもとからの高さが約350メートルになる山は、かつては高さ1万メートルのクスノキの巨木だった、と伝わる。
拡大する巨人が巨木を切り倒したあとだと伝わる「伐株山」。ふもとからの高さは約350メートル=大分県玖珠町
町の語り部、秋好民子さん(77)は「伐株山」と題された紙芝居を、こう始める。
〈むかし、玖珠盆地の真ん中に、天まで届く、なんでも8万年もたつという大きなクスノキが立っていました〉
木が巨大な陰をつくるため、ふもとの村は年中、日照不足だったそうだ。米や野菜が育たず、村人は病気がちで、困っていた。そこへ巨人が通りかかり、村人と協力して木を切り倒す、というあらすじだ。
拡大する語り部の秋好民子さんは、伐株山の伝説の紙芝居の読み聞かせをしている=大分県玖珠町
驚くのは、巨人のサイズだ。身の丈は900尺(約270メートル)と伝わる。「進撃の巨人」に恐怖の象徴として登場する「超大型巨人」(60メートル)の4・5倍にもなる。
なぜこのような巨人の民話が生まれたのか。地元では、先祖が伐株山の一風変わった形を見て、想像力をふくらませたのだろうと考えられている。木の根元を思わせる急斜面と切断面のように平たい山頂は、地学では「メサ」と呼ばれる珍しい地形だ。
伐株山の民話は、木が倒れて終わりではない。秋好さんの語りは、こう続く。
玖珠町の象徴的な存在に、「日本のアンデルセン」と呼ばれた童話作家がいます。「かくれた巨人」とされる作家の足跡をもとに、巨人についての「語り」と「騙り」を思案しました。
〈たおれたクスノキの大木が…
この記事は有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。
残り:1926文字/全文:2915文字
【5/11まで】デジタルコース(月額3,800円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら