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 名古屋シネマテーク支配人をしていた平野勇治さんの遺稿集「小さな映画館から」が刊行された。1スクリーン40席の劇場を差配しながら30年余にわたって新聞や雑誌に寄稿した約130編。映画への愛とミニシアターの心意気があふれる一冊だ。

 内容は多彩だ。キアロスタミ、鈴木清順、小川紳介、園子温ら意中の監督の作品評。19世紀末の誕生期にさかのぼる映像論。大劇場やシネコンと競合するミニシアターの現況報告。どの文章からも、映画の豊かさを知ってほしいという思いが伝わってくる。

 いくつか言葉を拾う。

 「人間の相貌(そうぼう)が一人ひとり異なるように、映画の表情も多種多様。どちらが優れている、という話じゃない。その多様性の中に身を置くことも、映画を見る大きな楽しみのひとつだ」

 大資本のエンタメ映画も小さな自主製作映画も差別せずに紹介した。しかし平野さんが愛したのは、見る側の期待に応えるように展開する映画ではなく、期待を裏切ることで新たな視点をもたらしてくれる映画だった。

 「一面的なものの見方の危うさとつまらなさ。単純化された情報から生まれる思考停止状態。そこから派生する集団ヒステリー的なバッシング感情。それに抗(あらが)うような映画をやっていくのが、ミニシアターの役割ではないか」

 地下鉄サリン事件後にオウム真理教(当時)の内側にカメラを入れた「A」。上映阻止圧力を受けた「靖国 YASUKUNI」。暴力団を密着取材した「ヤクザと憲法」。問題作を果敢に上映した根底には、そうした信念があった。

 平野さんは大学在学中から社会人の映画上映集団に入り、1982年の劇場創設に参画した。卒業後すぐスタッフになり、87年26歳から2019年1月に57歳で亡くなるまで支配人を務めた。50代半ば、都内の小劇場が閉鎖する知らせを受けて書いた文章に、次の言葉がある。

 「明日も面白い映画を見るためには、今日、面白い映画を上映していなくてはならない。ミニシアター城は、まだまだ陥落などしない」

 遺稿集は妻の安住恭子さんが自費出版した。「映画とミニシアターの現状と未来を懸命に考えていた平野の思いと言葉を残したかった」。A5判288ページ。1500円+税。問い合わせは家鴨(あひる)の編集舎(052・753・4598)へ。(佐藤雄二)

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