「色眼鏡」はどうでもいい 作家・加藤シゲアキの現在地

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聞き手・興野優平
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 アイドルグループ「NEWS」のメンバーで作家の加藤シゲアキさんの勢いが止まらない。直木賞候補となり、惜しくも受賞を逃した新刊「オルタネート」(新潮社)が、本屋大賞吉川英治文学新人賞の候補に入った。先月20日の直木賞の発表からおよそ2週間後、朝日新聞の単独取材に応じた。これまでタレントとして向けられる「色眼鏡」に反発し、性描写や暴力描写もいとわなかったが、候補作の執筆にあたっては、心境にある変化があったという。

 ――部活に熱中し、恋を知り、あるいは自立への道を歩み始める若者たちがみずみずしい筆致で描かれる「オルタネート」は正統派の青春群像劇です。直木賞の受賞は逃しましたが、その後、本屋大賞吉川英治文学新人賞の候補に選ばれました。

 直木賞を受賞できたら良かったという思いもありますが、受賞できなかったことで違う経験ができています。作品が自分の手を離れて読まれて、作品に遠いところまで僕を引っ張っていってもらう感覚はなかなかないなあと思いました。

 ――立て続けに三つの文学賞に候補入りするのは珍しいと思います。

 直木賞という、小説を読まない人でも知っているような文学賞の存在が大きかった。ゼロから1になった時の驚きがまずあります。その驚きがさらに本屋大賞吉川英治文学新人賞で広がっていきました。

 ――直木賞へのノミネートはどんな経験でしたか。昨年、候補に選ばれた際の囲み取材では「淡々と待ちたい」と話していました。

 体に良くないですね。なるべく意識せずに1カ月間過ごそうとしましたけれど、当日はすごくそわそわするし、当日のみならずその前後はそわそわしました。この先もう二つ(受賞発表が)ありますけど、あんまり考えたくないですね。

 ――タレント活動をしていれば緊張する場面は多くありそうな気がします。

 (賞の候補に挙げられて)俎上(そじょう)に載る、ということがあまりないですよね。「6人に選ばれました、このうちの誰かに決まります」ということはほとんどありません。

 でも、数えきれないほど本を読んできた下読みの方たちが、これなら直木賞候補にしても申し分ないと思ってくれたのだと思うので、それだけでほんとうに十分だなと思います。それが一番うれしかった。

 ただ、こうして話題になることでこういう取材を受けたりして、小説家としてフィーチャーしてもらう仕事がかなり増えました。僕自身が何か変わったわけではないけれど、周囲の見方が変わってきたとは感じますね。

 ――世の中の加藤さんに対する見方も大きく変わったと思います。これまでの作家生活を振り返ってみて、このタイミングでの文学賞の候補入りをどう思いましたか?

 作家デビュー時を振り返ると、命がけで書いたデビュー作の「ピンクとグレー」(2012年)が、少しも文学賞に出てこないんだなと思った気もします。それ以後も、別に狙っていたわけではありませんが、まったく話に出てこなかった。だからもう、5作目ぐらいで半ばあきらめていました。シンプルに自分の実力が足りないと思っていた。だからこそいろんな出版社の編集の方ともっと話して、いろんな経験を積みたいと思っていました。

 「オルタネート」はもう一回小説の考え方、小説への向き合い方を改めようと思って書きました。新潮社という老舗の出版社と仕事をすることで、何か作家として自分に足りないものが見いだせるかなと思っていたところがありました。

 自分にしかできないやり方をしようと思っていたら、意外にも文学賞関係の人たちに興味を持ってもらえた。自分はただ一生懸命書いただけですけれど、やっと、そう見てもらえるようになったのか、と思いました。

 ――デビューから今まで、意識してきたことを改めて教えてください。「オルタネート」にはありませんが、これまでの他の作品「傘をもたない蟻(あり)たちは」や「チュベローズで待ってる」などでは意識して性描写や暴力描写を盛り込んでいたように感じました。

 最初の三部作(「ピンクとグ…

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