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 新型コロナウイルスワクチンの接種が、近く医療従事者から始まる見通しだ。国の審議会の予防接種・ワクチン分科会委員で、接種方針の議論に参加している川崎市健康福祉局の坂元昇医務監(68)に、接種をめぐる課題などを聞いた。

 ――川崎市と厚生労働省は1月27日、集団接種訓練を実施しました。

 集団接種だけでなく、小さなクリニックでの個別接種を想定した訓練も行った。集団接種の訓練では、どこにでもある規模の体育館、パイプいすや机、間仕切りを使った。各自治体からは「感覚がつかめた」との声が届いているほか、改善の提案も頂いている。

 訓練を通じて、接種前の医師の診察に時間がかかることも分かった。私も医師として訓練に参加したが、例えば80歳の女性が「私、妊娠しているかもしれない」と言う。認知症の役でね。「そんなわけない」とも言えず答えに困ってしまった。予診とは別に相談コーナーが必要だと感じた。

 ――市の準備状況は。

 少なくとも各区に一つ以上、会場を確保しようとしている。市民館やスポーツセンターなどが候補だ。接種完了までには1年ぐらいかかるので、学校は難しい。ワクチンを保管する超低温冷凍庫は90台ぐらい確保できるが、むしろワクチン供給に時間がかかるのではないか。接種会場のスタッフ確保には、医師会が協力的だと聞いている。

 ――ほかに課題は。

 零下75度での保管が必要なファイザー製は、解凍後に振動を与えると品質が劣化する可能性があり、自転車やバイクでの搬送は認められない見通しだ。4月初めには承認されそうなアストラゼネカ製は常温で運べるので、個別接種には適しているのではないか。1回目の接種後、ちょうど3週間後に2回目を接種しなければならないファイザー製と比べ、2回目までの期間も長くできそうで利便性も高い。ファイザー製は集団、アストラゼネカ製は個別と、接種を受ける人が選択できるようになるかもしれない。

――アストラゼネカ製はファイザー製に比べて有効性が低いと言われています。

 アストラゼネカ製でも、インフルエンザワクチンなどと比べれば十分高い。コロナを完全に世界からなくそうというのは、ちょっと無理があるが、国民の6~7割がワクチンを接種すれば、飲食店にも出入りできる普通の生活ができるようになる。ワクチン接種は、自由を制限せず、経済も圧迫しないことを担保する、唯一の切り札だと思う。

 ――副反応も心配です。

 副反応のリスクと接種のベネフィット(利益)を考えて欲しい。確かにコロナワクチンではアナフィラキシー(重いアレルギー反応)が起きる割合が、インフルエンザワクチンなどより高いという報告もある。しかし、応急処置により死亡や重い後遺症はほとんど出ていない。私は高齢で基礎疾患もあり重症化する危険がある。過去にアナフィラキシーを起こしたこともあるが、私なら接種するという選択をする。

 ――副反応についての情報公開が安心につながるでしょうか。

 情報公開は大事だし、実際に多くの生データが公表されている。ただ、解釈には専門家でも苦労する。私のようなワクチン推進派には良いとみえるデータが、ほかの専門家には違ってみえることもある。それも含め、幅広く議論されることが大事だろう。

 ――基礎疾患がある人も優先接種の対象です。どのように確認しますか。

 自己申告で基礎疾患があるといえば優先接種を受けられるようになるだろう。もちろん、うそをつく人もいるだろう。うそつきが100万人出て本当に必要な人が受けられなかったらどうするんだという議論もあった。だが、基礎疾患を証明しろとなれば、医療に負荷をかけることになり好ましくないという方向だ。

 ――接種を受けないことで、社会生活に影響がでる可能性はありますか。

 国の会議では委員から「(接種したかしないかで)差別が起こるのは問題だ」という発言があった。政府としては民間には介入しない姿勢だ。海外では、飛行機への搭乗や観劇場への入場に、接種済み証の提示を求めている例がある。日本で市町村が発行する接種済み証は、海外でも使えるように英文も記載する。国内での差別についても、今後課題になるだろう。(聞き手・大平要、鈴木淑子)

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 さかもと・のぼる 横浜市立大医学部卒業後、山口大助教授、米ファイザー製薬臨床開発統括部長などを経て、1995年、川崎市に入庁。2017年から川崎市立看護短大学長も務める。厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会委員。68歳

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 川崎市は12日、1月に厚生労働省と共催した新型コロナウイルスワクチン接種会場運営訓練の報告書を公開した。医療機関での個別接種と体育館での集団接種について、会場レイアウトや人員配置、準備した物品などを記載。受付、予診、接種、経過観察など各段階での課題や今後取り組むべきことが書かれている。市のホームページ(https://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000124018.html別ウインドウで開きます)で閲覧できる。