山口裕起
大阪の公立高が「たまたま」ではなく、「狙って」甲子園をめざすプロジェクトを始めます――。1月下旬、ツイッター上でそんな投稿を見つけた。私学全盛の時代に、どういうことなのか。真相を確かめるべく、さっそく連絡を取り、学校へ向かった。
投稿したのは、達(たつ)大輔さん(43)=ツイッター@neyagawa_hs_bbc。寝屋川市にある進学校、寝屋川高の野球部監督だ。就任12年目。「母校を甲子園に導きたい」との思いから、プロジェクトを始めたという。練習を見つめる厳しい視線や、動き回って選手へ指示を送る姿から熱い思いが伝わってくる。
「狙って」と言うぐらいだ。練習に何か秘策が隠されているのではと、熊本の公立高で甲子園をめざした記者も目を見開いて選手の動きを追った。
ところが、最後まで特別な練習はなかった。他部と共用の狭いグラウンドで、自主練習中心のよくある風景だった。
部員は1、2年計32人で、平日は2時間ほど。打撃練習中に守備や走塁練習も兼ねるなど工夫していたが、その内容に驚きはなかった。
達監督は説明する。「このプロジェクトは、SNSを通じて外部アドバイザーを増やし、みなさんの力を借りてチームを強化していくもの。それは練習の中身だけに限りません」
達監督は、毎日のようにツイッターを投稿する。「公立高が私学に負けている部分は?」と投げかけたり、実際の試合で起きた場面を提示して、「あなたが監督だったら選手にどのような指示を出しますか?」と問いかけたり。見知らぬ人からの反応でも納得すれば受け入れ、指導の参考にする。
野球部の活動を広く周知することも狙いの一つ。数年前から、大阪市立大や大阪教育大の教授から栄養指導やトレーニング指導を受けられるようになったのも、取り組みに共感を得られたから。「試合の采配はするが、それ以外のことは専門家や得意な人に任せる。私は監督でもあり、経営者でもあるんです」。選手のスイングや投球の動画をSNSにアップし、技術指導を求めることも考えている。
寝屋川高に入学してもらおうと、近くの中学校やクラブチームに手紙を送り、練習見学会を実施することも。推薦はないため出願を勧めることしかできないが、今年度は60人を超える中学生から問い合わせがあったという。
強豪私立がひしめく大阪で公立高の甲子園出場は、春は1995年の市岡、夏は90年の渋谷を最後に遠ざかる。寝屋川も春2回、夏1回の甲子園出場経験があるが、半世紀以上も前の話。ただ、近年は強豪を脅かす存在だ。18年の春季大阪府大会準々決勝。この年に春夏連覇を達成する大阪桐蔭を相手に九回2死まで勝っていた。夏も準々決勝で履正社を苦しめた。
いまの2年生は、その躍進ぶりにあこがれて入学してきた世代。「学力的には2ランクくらい下の学校を目指していたけど、寝屋川で野球がしたくなって猛勉強した」とエースの辻野涼介。主将の野崎凪は「本気で甲子園を狙っている。監督を信じてついていく」。昨秋は府の4回戦で敗退し、最後の夏にかける思いは強い。
達監督にとっては、ツイッターの書き込みに反応したすべての人がプロジェクト達成に向けた仲間だ。約3時間の取材の間に、記者も3度聞かれた。「どうしたら甲子園に行けると思いますか?」。その目は本気だった。(山口裕起)
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