外国人生徒のキャリア教育、加茂高で取り組み 岐阜

吉田芳彦
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 「雇用の調整弁」として不安定な立場に置かれることが多い外国人労働者。その子どもたちも正規雇用の機会が限られ、非正規雇用の「再生産」が起きているとの指摘もある。外国人生徒が多い岐阜県立加茂高校定時制(同県美濃加茂市)はそんな連鎖を断ち切ろうと、将来を見すえた「キャリア教育」に取り組んでいる。

 同校周辺には外国人が多く働く自動車部品などの工場が点在し、15年ほど前から、その子どもたちが入学するようになった。今年度は定時制(4年制)の生徒135人のうち、7割以上の99人が外国籍だ。

 そこで、同校では生徒の社会的・職業的な自立に向け、日本語の能力向上や幅広い職業観の育成、将来設計のためのライフプラン講座、卒業生の講話などを組み合わせて、キャリア教育を進めている。

 日本語の能力・発信力の向上を目指す日本語プレゼンテーション大会のほか、3年前からはライフプラン講座も始めた。狙いは将来を見据えた長期的な生活設計を考えること。正社員と派遣社員の違い、日本の社会保障制度などを学ぶ。講師のファイナンシャルプランナー竹内幹さん(49)は「給与が高いという選び方ではなく、会社の福利厚生など正社員のメリットを考えて選択できるように伝えている」という。

 同校の進路指導主事、尾関清光教諭(39)は「生徒たちが正社員を目指す取り組みを進めている」。非正規で働く親の姿を見て、子どもも「それでいい」と思いがちという。だが、「最近は正社員を目指す生徒が多くなってきた」と話す。

 昨年10月にあったキャリア教育の一つ、進路ガイダンスに参加した1年生のルカス・ケンジ・タナカ・オリベイラさん(16)は日本生まれの日系ブラジル人。大型運転免許を取得し、非正規の仕事から運送会社の正社員になった父親を念頭に「正社員になり休日を取れるようになった」と話す。ガイダンスで奨学金のことも知ったが、「資格を取れば早く働ける。興味がある自動車整備士へのイメージがはっきりした。中学の時より勉強し、自分でお金をためて進学したい気持ちになった」と将来設計を描く。

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 日系人の事情に詳しい武蔵大のアンジェロ・イシ教授(移民研究)に外国人生徒向けの「キャリア教育」などについて聞いた。

 ――外国人の子どもが非正規の仕事に就く例が多いですが。

 間違いなく非正規雇用者の再生産が進行していると感じる。「デカセギ」で来日した人の子どもの多くは苦労する親を見ている。だからと言って、「自分は非熟練労働や非正規雇用から抜け出そう」という方向には必ずしも向かない。「どんな仕事でもいい、稼げば親も楽になる、親の負担を軽くしたい」という意識が働くからだ。進学(教育)に投資すれば、中長期的な展望ではメリットが大きいが、大学など高等教育の学費が高いのがネックだ。

 ――希望する進路を描くために必要な教育・アドバイスはありますか。また、仕事の選択肢を広げる方法はありますか。

 親が大学に行かせたいと言ったら、素直に行ってもらいたい。よい大学を目指してもらいたい。仕事の選択肢を広げる魔法のような方法は残念ながら存在しない。教育への投資以外ないのではないか。

 日本社会として本気で子どもたちの選択肢を広げたいのなら、エスニックマイノリティー(少数民族)のニーズを視野に入れた優遇政策的な奨学金の仕組みが必要。非正規雇用者の子も私立大学に卒業まで通える経済的基盤がないと、理想論や自助努力論に終始しがちだ。

 ――日本語教育、正社員と非正規の違いの理解、ライフプランセミナー受講は有益ですか。

 一番の課題は「時給制症候群」からの脱却。生活費稼ぎも生活設計も全て「時給で稼ぐ」ことをベースに考えてきた。年収ベースで稼ぐことを、「教育」する必要がある。

 また、労働市場全般で外国人に求められる日本語力のハードルを下げることで、中程度の職種や仕事へも選択肢が広がるだろう。

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 昨年6月から、美濃加茂市の外国人市民のための日本語教室に、取材で何度か通った。明るい雰囲気が印象的だったが、そこで担当職員から聞いた「非正規の再生産」への懸念が心に引っかかった。外国人労働者の親と子どもたちの就職の実態は――。具体的な調査データは見つけられなかったが、加茂高校定時制で話を聞くことができた。キャリア教育は国籍を問わず、この地で生きる人たちの誰もが、自身の希望とチャンスを生かす後押しとして必要だろう。苦学を美談とすることよりも、希望をかなえる仕組みや支えが普通にある社会を願う。(吉田芳彦)