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 2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするために、原動力となるのは地域に暮らす市民です。頭で分かっていても、具体的にどう「自分ごと」としてつながっていけばいいのか。例えば地産地消の再生可能エネルギーに出資したり、地域の脱炭素化を話し合う場に参加したり……。各地で始まった取り組みをヒントに考えます。

太陽光発電「相乗り」で 長野・上田市 全国から270人出資 藤川まゆみさん

 自分に合った協力方法で地域の太陽光発電を増やす取り組みが、長野県上田市でまもなく10年を迎えます。NPO法人「上田市民エネルギー」が手がける「相乗りくん」。約270人が出資し、50カ所以上に太陽光パネルが設置されてきました。

 きっかけは、2011年3月の東日本大震災でした。代表の藤川まゆみさん(57)は、それまでエネルギーを考える勉強会を地域で開いていました。しかし、福島原発の事故後、「話しているだけでは何も解決しない」と考えました。そこで思いついたのが、空いている屋根にみんなで「相乗り」する仕組みでした。

 「何かしたいけど、パネルを設置する場所がない」「何をしていいかわからないけど、屋根はある」。そんな人たちをつなげました。出資は一口10万円。出資者は自分のパネルの発電量を把握できます。屋根の提供者は初期費用ゼロ、出資者は売電収入、双方に利点があります。

 1軒の住宅からスタートし、現在パネルは企業や中学校、大学など53カ所に。19年度は約75万キロワット時を発電し、二酸化炭素削減量に換算すると約496トンとなりました。出資者は全国、海外にも広がっています。「いろんな人たちのお金でパネルを設置することに意義がある」という声もあるそうです。

 大きな地球から見れば、一つのまちの、小さなアクション。藤川さんは「相乗りくんが増えただけで解決する問題ではないことは、自覚しています」。でも、と続けます。「前に進もうとする人がいるから、周りの人も動く。それがやがて、社会が変わる原動力になるはずです。自分にもできることがあった、行動を起こすことができた、そんな一歩でいいと思うんです」

 長野県は19年10月の台風19号災害を機に、都道府県では初の「気候非常事態宣言」を出し、50年度までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにするための通称・ゼロカーボン条例を制定しました。その土壌は、自然エネルギー普及を目指す県内各地の市民活動が支えています。(田中奏子)

再エネ 市で地産地消 滋賀・湖南市 配当は地域商品券

 市民を巻き込んで脱炭素で循環型の持続可能なまちづくりを目指す地域が増えています。その一つ、滋賀県湖南市は2050年までに市内の二酸化炭素排出実質ゼロを目標にすることを昨年宣言しました。中核を担うのは、市と、地元企業や商工会が出資し16年に設立された自治体新電力「こなんウルトラパワー」。市地域エネルギー室の池本未和さんは「地域で生み出す再生可能エネルギーを地域で回し、そこで得られる利益も地域に還元します」と説明します。

 ウルトラパワーは、市内の小規模太陽光発電所の電気や、家庭用太陽光発電の余った電気を買い、自らも小規模太陽光発電所をつくって、それらの電気を、市内の公共施設、企業、一般家庭に売ります。現在の売電先は計110カ所。再エネの地産地消です。

 市民からの出資も、後押しになっています。小規模太陽光発電所の一般社団法人コナン市民共同発電所は、これまで1号機から4号機まで計4900万円の出資を1口10万円で一般市民と地元企業に募りました。出資者は個人と法人あわせて計213件。出資者への配当は主に、市内で使える地域商品券で、地域経済の循環にも役立っています。ウルトラパワーも、資金調達のために債券(グリーンボンド)をこれまで計1億7千万円発行しました。収益と合わせて地域の再エネ、省エネを進めるためで、たとえば市内2カ所の物流センターの屋根を借りて太陽光発電設備を設置したり、小学校の体育館にLED照明を導入したりしています。

 地域の森林の間伐材など木質資源を燃料とするボイラーを導入し、二酸化炭素排出を減らす計画もあります。木質燃料のまき割りを市内の障害者に担ってもらうなど、林業と福祉の連携も考えているそうです。

 再エネ、地域経済、林業、人材、それぞれがつながり、脱炭素で持続可能な地域づくりをする構想です。(神田明美)

「くじ引き」市民 行政に提言 札幌市 「気候市民会議」にチャレンジ 橋本祥子さん

 欧州では2019年以降、くじ引きで選ばれた市民が、脱炭素社会へ移るために必要なことを議論し政府や議会に提言する「気候市民会議」が行われています。日本でも、50年に温室効果ガス排出量を実質ゼロとすることを宣言した札幌市で、昨年11~12月、試行されました。三上直之・北海道大学准教授らのチームが市の協力を得てオンラインで開催。無作為に選ばれた市民20人が4時間ずつ4回にわたって議論しました。

 参加した橋本祥子さん(35)は、以前から、地球温暖化対策で脱炭素を目指す動きがあることなどは知っていたそうです。ですが、「違う世代、立場の方たちとじっくり話すことができ、知ったことや考えさせられたことは多いです」。専門家の話を聞いた後、1時間以上にわたり4人ずつのグループで話す時間があったことが特に良かったと言います。

 例えば交通。車の走行が減れば二酸化炭素の排出削減になりますが「自動車を持っている人が手放すにはどうすればいいか」が話題になりました。札幌市にあてはめ、自転車専用レーンがもっとできるといい、地下鉄の新しい路線ができるといい、と話が広がりました。走行中に二酸化炭素を排出しない電気自動車に乗る他の参加者から「北海道は寒いのでバッテリーが心配」と聞き、「車が必要な人もいる。寒冷地に強い電気自動車ができるといいと思いましたね」。

 話し合った内容や参加者の意見は研究チームが提言書にまとめて市に提出。橋本さんは「会議の後、自分の生活がすぐに変わったわけではなく、地下鉄の新しい路線もすぐにはできませんが、これから動いていくこと。今後も開かれ、多くの人が参加できるといいと思います」。

持ってるモノから想像して デザイン活動家 ナガオカケンメイさん

 「ロングライフデザイン」を発信するD&DEPARTMENTを2000年に始めました。

 気候変動を「自分ごと」と捉えた行動が広まりにくい。自然との距離のせいでしょうか。都市では、自然や気候がどうあろうとも部屋は快適。「山梨でワイン用のブドウ栽培が難しくなっている」「地のものが採れなくなった」と聞いて初めて、僕はハッと実感を持ちます。

 北欧などで気候変動の思想や社会の仕組み作りが広がっているのを見ると、すごいなと感じます。でも日本で全く同じにするのは無理だとも。理由の一つは、日本の人たちの無類の「モノ」好き、です。

 企業は匿名の大衆に向けて市場へ膨大な商品を投入し、人々はモノを求めて移動し、取り寄せる。日本では今もモノ中心に経済が回っている感覚があります。大量生産・大量消費も気候変動の原因のひとつでしょう。ただ戦前の民芸運動などを考えると、日本人のモノへの執着や愛着はもともと強くて、簡単には捨てられないんですよね。東日本大震災後にモノではないコト消費がさかんになりましたが、今でも精神性を志向しようとして、人々はランタンやヨガ用品を買いに走りますから(笑)。

 僕自身もモノの世界にどっぷりつかり、25年ほど前は缶コーヒーやタバコのパッケージをデザインしていました。消費者を見た目で惑わし、いかに速く多く買わせるかに加担する仕事です。ある日急に消費の強烈なスピード感に怖くなった。デザイナーとして時間の意識を変えていくことに興味がわいたのです。

 僕たちの活動は、リサイクルショップでも捨てられそうなモノに新たな価値付けをして売ることから出発し、長く使う前提で作られたデザイン、それが生まれた土地や自然に目を向ける活動に発展しました。日本では、モノを通じて意識や行動を変えるやり方もありかなと今は思っている。

 季節風の強い伊豆諸島・利島では、防風林のツバキの油が特産品です。愛知県阿久比(あぐい)町には、注文を受けてから焼き、売れ残りを出さないパン屋があります。モノは元来、自然の中で、人々の直接の関係性から生み出されたことを思い出させてくれる。モノが生まれた風雨の吹きさらす自然環境に身をさらし、小さな経済圏を体感することが、気候変動の自分ごと化につながりそうな気がします。(聞き手・藤田さつき)

 アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●自分の行動に意味はあるの?

 地球温暖化対策を自分事と捉えても、周囲との温度差がありすぎると思います。家族に話してみましたが、「そんなきれいごと」という反応でした。自分に直接利益がなければ、人は動けないものです。そういう私も、何か行動しても目に見えるものではないし、自分ができることと、国や企業ができることとのスケールの差を前に、なおさら「自分がしていること、意味はあるのかな……」と感じてしまいます。(新潟県・10代女性)

●便利をあきらめない取り組み必要

 温暖化の対策は必要だと思うが、生活が不便になるのは我慢できない。二酸化炭素の排出量は増え続けており、生活もどんどん便利になってきた。急に温暖化対策として自動車が規制されたり、飛行機での旅行が批判されたりする世の中になったが、これまでの世代が好き放題やってきたツケを若い世代だけが負担させられることは公平ではない。二酸化炭素の地中への貯留や自然エネルギーへの代替などによるゼロカーボンの取り組みを通して、便利さをあきらめないことが必要だと考える。(千葉県・20代男性)

●法規制による行動変容も必要

 将来の子供たち、地球に負の影響を及ぼす可能性が高いことを頭では理解している。しかしながら、日々の時間軸の中では悪化に向かっている実感が持てず、当事者意識や行動につながりにくいと思う。いわゆる、カエルのゆで煮状態。従い、気持ち良いものではないが外力、例えば法規制などを進めて半強制的に我々の行動変容を促すことも必要だと思う。(千葉県・50代男性)

●電力の自給自足実現を働きかける

 個人でできることは、自宅で太陽光発電などをしつつ、地元地域で、(大手電力の送電網につながらず電力を自給自足する)脱系統、オフグリッドが実現するよう、地元政治家、自治体に働きかける。(千葉県・60代男性)

●市民の科学リテラシー向上を

 温暖化問題をいまだ陰謀論のように考える人たちが一定数おられるようです。「今年のような豪雪を踏まえると、温暖化は起きていないのでは」などの誤解も一部にあるようです(実際は、例えば気象庁は、温暖化に伴う大気中の水蒸気増加が豪雨や豪雪につながる可能性を指摘していますよね)。そういう意味で迂遠(うえん)でも、市民の科学リテラシーを高める努力が様々な場で必要に思われます。私自身、子育て世代で、環境問題や気象について学ぶ催しに家族で参加したり、関連書を家族で読んだりしています。私たちは微力ですが、微力と無力は違うとも言いますし、ゴミ削減、節電、公共交通機関利用などに努め、何より有権者として政治を変えたいと思います。(東京都・50代男性)

●「足るを知る」で心に余裕

 物を生産するのにも、二酸化炭素が排出される。そもそも、物があふれすぎ大量に廃棄されている。大量生産、大量消費をやめ、持続可能な社会を目指し、本当の豊かさとは何か問い直していくべきだ。私自身、本当に必要でない物を捨てていくと物欲もなくなっていった。「足るを知る」という感覚を持ててから、心に余裕も出てきたように思う。(京都府・30代女性)

●地球温暖化は当たり前の課題

 20代の自分にとって、地球温暖化は幼いころから言われている「当たり前」の課題。自分ごととして捉えづらいと感じたことがない。二十数年の人生でも、異常気象など地球環境の変化を感じながら生きている。(東京都・20代その他)

●ひとりの変化、大きな変化に

 買い物や選挙など、自分自身の選択が地球や後世にも影響を生むということを知りました。自分はこれからこの地球で、どんな思いで生きたいだろうということを一人一人が真剣に考えることが、環境問題について考えることにもつながってくると思います。モノを大切にする、感謝する、自分を大切にする、一人一人の行動や意識の変化は、やがて大きな変化になります。できることからやっていきたいです。(北海道・30代女性)

     ◇

 上田市民エネルギーの藤川さんの言葉に、はっとしました。「何もしていないから、無力感が生まれるんです」。まさに、私のことです。正直に言って、地球温暖化に対して何もしてきませんでした。子どものころは、川でカニを捕まえたり、雪でかまくらを作ったり。自然が好きだったからこそ、逆に一人では何もできないと、目を背けていました。

 何かしてみようと、担当の長野県庁まで、車を使わず自転車で行ってみました。抑えた二酸化炭素量を調べると、1日1キロくらい。階段を使ったり、「エコマーク」と書いてある商品を探したりしてみました。

 たった数日の行動では、地球には何の変化もなさそうです。ですが、自転車をこいだ時の澄んだ空気、遠くに見えた山々は、とっても美しかった。目を背けたままでは気づけなかったと思いました。