第23回五輪と医学部受験、両方めざした柔道の元世界女王の本気

[PR]

 コロナ禍の中、入試にのぞむ受験生たちに贈る激励のメッセージ「受験する君へ」。柔道の元世界女王・朝比奈沙羅さんが贈る言葉です。

受験する君へ 柔道の元世界女王・朝比奈沙羅さん

 医学部を受験した高校3年の冬、「不合格」になった瞬間は今でもよく覚えています。スマホの画面を見て、涙がぼろぼろこぼれて。地下鉄の車内で「うぁっ」って泣きました。

あさひな・さら 1996年生まれ、東京都出身。渋谷教育学園渋谷高(東京)、東海大体育学部を卒業し、2020年春に独協医大医学部に入学。柔道では17年に体重無差別の全日本女子選手権を制覇。18年世界選手権の女子78キロ超級で金メダルに輝いた。

 翌年のリオデジャネイロ五輪を目指していたので、浪人はできませんでした。受験したのは柔道の環境を考えて東海大だけ。現役選手として五輪にチャレンジできる機会は少ないですから。とりあえず柔道を頑張ろうと、東海大体育学部に進学しました。

 不合格は悲しかったけど、「自分は本気だったんだ」と目覚めるきっかけになりました。やっぱり医師になりたい、いずれは必ず合格してやるぞって。受験の直前、「本当に(医学部受験が)自分がやりたいことかどうかわからない」と父に愚痴をこぼしました。「そう言わずに頑張れよ」って優しい言葉を期待したのに、父から「じゃ、やめれば」って突き放された。どこかで、父の敷いたレールの上を走っている感覚があったのかもしれません。

 幼い頃から両親が共働きで、学校が終わると母が働く歯科医院に帰っていました。病院の麻酔科に勤務する父からはマウスの解剖をやらせてもらったり、手術を見学させてもらったり。医療に興味が芽生える環境で育ったため、将来は自分も医療の仕事に進むということを受動的に、疑いなく考えていたのが正直なところです。それが、医学部に落ちたことで自分の将来に対する気持ちの強さを確認できました。

 体育学部3年で再び医学部受験の勉強を始めました。大学の講義が休みの日に予備校に行き、夕方からは稽古やトレーニング。教職課程も取っていたので大学、柔道、予備校でいっぱいで、余計な予定を入れる余裕はなかったです。

 2度目の受験では、勉強法を変えました。高校3年の受験前はとにかく問題を解いて、量をこなしていたんです。でも、2度目の受験では自分の抜けている単元や、知識が抜けている分野を穴埋めするように勉強を進めていきました。

 中学時代から全日本の強化選手に入っていたため、合宿や遠征で授業に出られず、勉強が所々で穴になっていたんです。数学で言えば、授業に出ていた微分は理解できるけど、休んでいた積分は苦手とか。わからない部分を中心に勉強するので進度は遅くなりましたが、この方法は自分にとって良かったと思います。

 五輪を目指す柔道選手が医学部受験を並行していることで、批判も受けました。ニュースサイトのコメント欄に「脳まで筋肉の柔道選手が……」と書かれたことも。柔道界からも批判の声が聞こえてきました。

 なぜ頑張れたかと言えば、やっぱり医師になりたいという思いが一番です。自分が言ったことはやり通したいと思ったからです。負けず嫌いの性格。実現してやる、という気持ちがやりがいにつながりました。

 受験を控えている皆さんの中には、勉強と部活の両立に悩んできた人もいると思います。私も高校3年生の時はいっぱいいっぱいでした。2度目の受験でも勉強と柔道の両方を本気でやっていましたが、高校生の時より、良い具合に両立できたかなと思います。柔道が調子がいい時は少し柔道の割合を多くしたり、勉強が乗っている時は柔道は抑え気味にしたり。緩急を付けられました。誰でも200%の力で頑張ると燃え尽きます。102%、103%の力で頑張り続けることで、その2~3%が成長につながっていくと今は思っています。

 昨春、独協医大に合格しました。東海大時代は柔道が中心の生活だったので、今の生活はすごく新鮮。現役で入学してきた10代後半から20代後半まで幅広い年齢の同級生にも恵まれています。

 新型コロナは収束まで時間がかかりそうです。ノーマスクで暮らせる日は、しばらく戻ってこないのではないでしょうか。自分も一人前の医療従事者になるために、まずはしっかり勉強して、知識を身につけ、頑張っていかないといけないと強く思っています。

私の勝負メシ

冷やしたぬきうどん

食事はモチベーションアップにつなげたい。勉強も柔道も勝負の日は、その時に食べたいものを食べます。独協医大の試験では、1次も2次も昼食は冷やしたぬきうどん。この時も直感で選びました。

     ◇

〈あさひな・さら〉1996年生まれ、東京都出身。渋谷教育学園渋谷高(東京)、東海大体育学部を卒業し、2020年春に独協医大医学部に入学。柔道では17年に体重無差別の全日本女子選手権を制覇。18年世界選手権の女子78キロ超級で金メダルに輝いた。

連載受験する君へ(全34回)

この連載の一覧を見る