全盲の金メダリストが絵本に パラは「可能性の祭典」

伊藤繭莉
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 【福岡】東京パラリンピック開催に合わせて、全盲の水泳選手で金メダリスト河合純一さん(45)の半生を描いた絵本が2月、出版された。作画は太宰府市の絵本画家、吉澤みかさん(57)。金メダルを取ろうと必死に練習に励み、どんな困難にも前向きに立ち向かって夢をかなえた姿が生き生きと描かれている。

 河合さんは静岡県出身。病気のため生まれつき左目の視力がなく、右目の視力も弱かったが、中学3年で全盲に。1992年バルセロナ・パラリンピックから6大会連続で出場し、金メダル5個を含む21個のメダルを獲得。日本人で初めて国際パラリンピック委員会の殿堂入りを果たした。現役を退き、東京パラでは日本代表選手団の団長を務める。

 絵本では、金メダル獲得までの苦難と喜びの道のりが描かれる。幼い頃、視力が弱いために水泳を諦めようと悩んだこと、プールの壁にぶつかりながらも練習に励んだこと、教科書の文字が読めなくなり、先生の言葉を一字一句聞き逃さないように集中して授業に臨んだこと。

 やがて水泳選手として花開き、教育現場で働くという幼い頃の夢もかなえたこと。

 巻末に、河合さんはこんなメッセージを寄せている。「『できないではなく、どうすればできるか』を考え、行動することにつきる。『ピンチは絶好のチャンス!』ととらえ、チャレンジしていくことではないでしょうか」。目には見えない新型コロナウイルスが世界中で広がる今、全盲のパラリンピアンの絵本を出版することに意義がある、とも記した。

 出版したのは、点訳出版を手がける社会福祉法人桜雲会(東京)。盲人女性の自立に取り組んだ斎藤百合、日本で初めて点字新聞を発行した左近允孝之進など、視覚障害者の偉人たちの伝記を毎年出版してきた。今年は東京パラ開催に合わせて、河合さんを選んだという。

 河合さんは「障害を不便だとか不幸だとかマイナスに捉えてしまうかもしれないが、不幸か幸せかを決めるのは自分次第。ストーリーを通じて、子どもたちに、障害をどう捉えて生きていくのかが伝わればいいと思う」と話す。

 パラリンピックは「人間の可能性の祭典」だ、と河合さん。「絵本を読んで選手に興味や関心を持ってもらい、その祭典を目の当たりにしてほしい」

 作画した吉澤さんは、これまで視覚障害者の偉人についての絵本や、被爆者を描いた絵本などを手がけてきた。今回は、河合さんが泳ぐ映像や写真を参考にしたという。作画では、特に金メダルをめざし懸命に練習する姿の力強さを表現しようと努めた。「絵を描いていても、河合さんのパワーが伝わってきた。何としても金メダルを取りたい、という気持ちが伝わるように描いた」と話す。「河合さんは中学で全盲になってもくじけずに、水泳選手になるという夢をかなえた。逆境にも負けず前向きな姿を見てほしい」と願う。

 点字や音声でも出版する。A4判40ページ、英訳付き。問い合わせは桜雲会(03・5337・7866)。(伊藤繭莉)