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 日本でも新型コロナワクチンの接種が開始されました。国立病院などの医療従事者約4万人が対象だそうです。私が勤務する病院でも新型コロナの患者さんを受け入れてはいますが数は多くはありません。まずは患者さんをたくさん診ている医療機関の方々が優先です。私もワクチン接種の希望を出していますが、現時点では、いつ接種を受けるのかは決まっていません。予定では3月中ということにはなっています。患者さんからワクチンについての質問を受けることも多くなりました。一般の方々に対してはまず高齢者を対象に4月以降に開始される予定だそうです。

 日本で接種されるファイザー製のワクチンは、臨床試験において約95%という高い発症予防効果を認めました。ただ、臨床試験は比較的条件のいい人たちを対象としており、実際に同様の効果が得られるとは限りません。そこで「リアルワールド」のデータが大事になるという話を2週間前の『医心電信』でいたしました。

 「そのうちに2回接種後のリアルワールドデータも出てくるでしょう」と書きましたが、さっそくイスラエルからデータが出てきました。報道によると、ワクチンによる免疫が十分につくとされる2回目の接種から1週間以上経過した人たちは、未接種の人たちと比べて、新型コロナと診断される人が93%減ったとのことです。有効率93%は、臨床試験の95%と近い数字です。

 ただ、ここで注意が必要です。リアルワールドではワクチン群と未接種群は同じ条件ではありません。臨床試験では条件をそろえるため、ワクチン群と対照群はランダムに分けられます。一方で、リアルワールドでは、まっさきにワクチン接種を受けられた人たちと、まだ未接種である人たちには何らかの条件の違いがあるはずです。ワクチン群に新型コロナ患者が少ないのは、ワクチンの効果だけではなく、高い社会経済的地位についていたり、条件のよい地域の住民であったりする可能性もあります。また、現時点では「有効率93%」のデータは論文になっていませんので、詳細なデータは不明ですし、専門家による査読もされていません。イスラエル当局にはワクチン接種が成功だったと宣伝したい動機が働きますので、利益相反もあります。

 とは言え、そういうことを割り引いても、ワクチンの有効性への確信が高まったことは間違いありません。新型コロナのワクチンには不確実性があると前回申し上げましたが、この不確実性がちょっとだけ減ったのです。日々、世界中の多くの人たちがワクチン接種を受け、有害事象の情報が集められていますので、副作用についての不確実性もゆっくりと減っていっています。これからは日本人のデータも加わります。変異株などの不安要素もありますが、少しずつよい方向に向かっていると信じています。

 みなさまの努力のかいがあって、日本では第3波はピークを超え、感染者数も重症者数も減少しつつありますが、油断をするとまた感染が拡大します。「生活の中で自分自身の免疫力を高めれば、何も怖くない」などと主張する自然派を名乗る医師もいますが、医学的根拠はまったくありません。私は日常的な感染予防効果を続けつつ、ワクチン接種を選択します。

 ※参考:https://www.timesofisrael.com/hmo-sees-only-544-covid-infections-among-523000-fully-vaccinated-israelis/別ウインドウで開きます

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。