京急事故、運輸安全委員会が報告書 そのとき何が

林瞬
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 【神奈川】踏切で立ち往生したトラックを検知して停止信号が点滅したその時、時速120キロで疾走する快特電車は踏切まで1290メートルに迫っていた。非常ブレーキをかければ約500メートルで止まれるとされる電車がなぜ、衝突したのか。2019年9月に京急線で起きた衝突脱線事故の詳しい状況が、国の運輸安全委員会が18日に公表した事故調査報告書で浮かび上がった。

 2019年9月5日午前11時半ごろ、横浜市神奈川区の京急線神奈川新町駅前の踏切。大型トラック(13トン)の運転手(67)が、通りかかった京急社員2人に助けを求めた。線路脇の道から左折するので後方を見て欲しいという。

 トラックは左折を試みたが、道があまりに狭く曲がれない。あきらめた運転手は今度は右折を試みた。

 右折するとすぐに踏切がある。トラックは踏切にさしかかり、運転手は必死に切り返しを繰り返した。京急社員は、トラック後部が道路標識にぶつかり「バキッ」と音をたてるのを聞いた。

 青砥発三崎口行き快特電車(8両)が踏切に迫っていた。衝突48秒前、警報器が鳴り始めた。同44秒前、障害物検知装置がトラックを検知。すぐに電車に停止を指示する特殊信号発光機(特発)が、赤色の点滅を始めた。

 このとき電車は踏切まで1290メートル地点を走行していたと推定される。ブレーキをかければ余裕をもって止まれるが、特発はまだ見えていなかった。

 同41秒前、遮断機が下り始めた。京急社員は「踏切支障報知装置」のボタンを押し、トラックが出られるよう遮断機を押し上げた。

 踏切まで391メートル地点の特発を運転士が視認できたのは同21秒前(踏切まで572メートル)と推定される。同17秒前(同422メートル)、運転士は時速119キロで疾走する電車のブレーキをかけた。徐々に強め、同11秒前(同244メートル)には非常ブレーキをかけた。

 遮断機が下りたときに上り線をふさいでいたトラックはさらに切り返しを重ねていた。衝突7秒前、電車が迫る下り線もふさいだ。

 衝突時の電車の時速は62キロ。トラックは大破し、男性運転手が死亡。電車も前3両が脱線し、乗客75人と運転士、車掌が重軽傷を負った。

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 事故を防ぐことはできなかったのか。運輸安全委員会が着目したのは、立ち往生するトラックを検知して特発が点滅したのに運転士に早く伝達する仕組みがなく、特発点滅後も電車が減速せぬまま約720メートルも進んだ点だ。

 京急の当時の内規は特発について、電車が止まるのに必要な、踏切の517・5メートル以上前から視認できる位置に置くと規定。この踏切では572メートル手前から視認できていた。だが他の架線柱などで断続的に遮られ見えづらくなっていた。

 この踏切では計算上、時速120キロ走行時は、特発を視認できる位置を通過後1・8秒以内にブレーキをかけなければ止まれない。事故時はこの位置を通過した4秒後にブレーキをかけたと推認された。

 特発を見た際に通常のブレーキをかけるか、制動力が強い非常ブレーキを使うかも、運転士の判断に委ねられていた。

 こうしたことを総合し、報告書は再発防止策として、ブレーキ操作までに必要な時間も考慮した位置に特発を設置するよう提言。非常時のブレーキの取り扱いを具体的に決めておくことや、異状を検知した際にすぐに列車を停止させる仕組みについて、多面的に検討することなどを求めた。

 京急は事故を受け19年11月、特発を見たらすぐに非常ブレーキをかけるよう基準を明確化。同年12月には特発の設置ルールも変え、現場踏切の約900メートル前から見える位置に特発を増設した。

 報告書はまた、線路脇の狭い道に大型車が迷い込まないようにする対策を道路管理者に求めた。横浜市は同年12月、「大型車両通行困難」と呼びかける標識や、迂回(うかい)経路を示す案内標識を新設している。

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 京急は事故後、神奈川新町~京急東神奈川駅間の最高速度を60キロに制限してきたが、再発防止策が完了したとして、3月末までに時速120キロ運転を再開すると、18日発表した。(林瞬)