東浩紀さん、模索の10年 たどりついた「哲学の実践」

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聞き手・大内悟史
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 批評家の東浩紀さん(49)の新刊『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)が話題を呼んでいる。これまで執筆してきたような思想書ではない。2010年に現在の株式会社「ゲンロン」の前身を創業してから、およそ10年間の会社経営者としての歩みをまとめた。ネットの勃興などで再定義を迫られる従来の論壇や学界から距離をとり、新たな知的空間づくりに取り組んできたが、その道のりは、経営難や人間関係のもつれなど「まちがいの連続」だったと赤裸々に明かす。絶えず存在感を示し、動向が注目されてきた言論人は何を模索し、どこを目指しているのか。

 ――「ゲンロン」は、同名の雑誌や『観光客の哲学』などの自著のほか、大佛次郎論壇賞を受けた小松理虔(りけん)さん『新復興論』なども世に出してきました。出版以外にも、13年には東京・五反田にゲンロンカフェを開き、対談などのイベント運営も手がけています。『ゲンロン戦記』は経営危機や社内の対立などを克明に記していますが、東さんの目指すものが理解できたというのが読後感でした。

 20代半ばでインターネットの流行に出会い、既存のマスコミとは違う「オルタナティブ」の可能性に気づいたのが活動の出発点です。

 数千人から数万人規模の読者でも、1人年間1万円を払ってくれれば大きな力になります。知的好奇心が強い「知の観客」を相手に小さな経済圏をつくることで、出版や放送、大学などの大きなシステムとは異なる「知の多様性」を確保できないか。一般の生活者と絶えず接しながらものを考える、地に足の着いた知識人のあり方を模索してきました。

 ――論壇や文壇で高く評価され、大学で教える機会もあったわけですが。

 向いていない、という違和感がありました。(伝統的な)知の体系は大事ですが、それを守るだけではなく、もっと社会に開かれるべきだという思いがありました。

 ――母方の祖父が中小企業の経営者だった影響もありますか。

 大学に閉じこもらず、在野の立場になったことには、出自も影響しているかもしれません。

 ――本には、領収書の整理に始まるコスト感覚の必要性など、経営者としての苦労も記されています。順風満帆ではなかったですか。

 人事から会計処理まで混乱と…

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