世界最多のイスラム教徒が暮らすインドネシアでいま、若者に静かな人気を集めているのが、弓術と乗馬だ。「預言者ムハンマドの生き方にならう」と取り組む人が多いようだが、どういうことだろう。(バンドン=野上英文)
入会者700人超えの集団
首都ジャカルタから南東に車で2時間半ほど。西ジャワ州の州都バンドンの山あいにある「アル・ファティフ」を昨年、訪ねた。4ヘクタールの土地に馬小屋と馬場、弓術の練習場。昨年6月に開業し、イスラム教のモスク(礼拝所)も建設中だ。
週末の朝、スポーツウェアに身を包んだ若者たち10人ほどが集まった。「ムスリム・アーチェリー・コミュニティー」(MAC)のメンバーで、全員がイスラム教徒だ。弓矢を準備し、祈りを捧げる。的から15メートル先で横一列に並び、矢を次々に放った。
短く軽い弓にひょうたん形の的は、ユネスコ無形文化遺産に2019年に登録されたトルコ式弓術にならう。小柄なインドネシア人が扱いやすいほか、「最盛期の16世紀に西アジア・北アフリカ・バルカン半島にまたがる領土を誇った(トルコ系イスラム国家の)オスマン帝国に起源があることにひかれた」。17年に大学時代の友人とMACを立ち上げたレンディ・ハルヨノさん(30)は話す。
入会者はすでに700人に増え、この日も20代後半の男性3人組が見学に来ていた。3人は預言者ムハンマドが実践した慣行「スンナ」を挙げ、「ムハンマドが取り組んだスポーツに自分も挑戦し、信仰を深めたい」と口をそろえた。
スンナ イスラム教の預言者ムハンマドが実践した慣行で、例えば「飲食で右手を使う」など。信徒には義務ではないが、実行した方がよいとされ、スンナを伝えた言行録は聖典コーランに次ぐ規範とされる。
MACのメンバーは弓術と乗馬を中心に、水泳にも取り組む。いずれも、ムハンマドがたしなみ、「子供に教えるように」と説いたとされるものだ。「弓術は集中力、乗馬は勇気、水泳は生き残る力を養う」とレンディさん。月に4回、ムハンマドの生活を学びあう会合も開いている。
「どう生きるか」考える若者たち
若者たちはなぜ、「ムハンマドにならう」ことにひかれるのか。背景として指摘される一つに、インドネシアの経済成長がある。
世界銀行は昨年、インドネシ…