変わる広がる宇宙への道 朝日宇宙フォーラム2021

三丸さんと大西さんの写真はJAXA提供。構成・小川詩織
「朝日宇宙フォーラム2021」が開催 宇宙での暮らしや新型コロナ対策を紹介
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 将来の宇宙探査について考える「朝日宇宙フォーラム2021」(朝日新聞社主催、宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉後援、ヤクルト本社協賛、ANAホールディングス、BASE Q協力)が1月、東京都千代田区で開かれた。大西卓哉飛行士が「宇宙での仕事と生活」をテーマに基調講演したほか、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかでの有人宇宙開発についてパネル討論した。

基調講演

 2016年に宇宙に115日間滞在しました。宇宙は重力がないので、体がどんどん弱くなっていきます。骨や筋肉が衰えるのを防ぐため、毎日2時間近く運動していました。運動はスケジュールに完全に組み込まれていて、仕事の一部みたいな感じです。

 国際宇宙ステーション(ISS)には、真空を利用して負荷をつくり出す特殊なトレーニング機器があります。設定を変えればいろんな筋肉を鍛えられ、運動さえしていれば、ほとんど筋力を低下させずに地球に帰って来られるようになりました。

 宇宙では、汗をかいても下に落ちることがありません。顔の表面にずっと浮いてとどまったままです。宇宙空間の不思議ですね。

 地上と同じように、運動しているとおなかが減るので、食事は1日3回取ります。日本の食べ物も少し持って行くことができ、私は15%ほど持ち込みました。「日本宇宙食」と言います。自分が慣れ親しんでいる味を宇宙空間でも食べられたのは大きかったと思います。

 よく「どうやって寝るんですか」という質問をいただきます。壁に寝袋を貼りつけ、その中で寝ます。何の力もかからない状態で休めるので、リラックス効果がとても大きい。ちょっと寝ただけでも元気いっぱいで起きられます。無重力状態というのは最初は戸惑いがあるんですが、一度慣れてしまうとすごく快適な世界だと思いました。

 地球に帰ってきて、しばらく忘れていた重力の重みを感じたことが驚きでした。インタビューでとても話しにくくて。自分の舌の重さを忘れちゃっていたんですね。宇宙と同じようにしゃべっているつもりが、思うように舌が回らず、「無意識に舌を動かせる人間の体ってすごい」と素直に感じました。

 たった4カ月で、体はすっかり宇宙仕様になってしまっていたんですね。宇宙から帰ってきたあと、45日間のリハビリでバランス感覚を戻しました。

 おおにし・たくや

 東京大工学部航空宇宙工学科卒。全日空(ANA)のパイロットに。2009年、飛行士候補に選抜され、11年に基礎訓練を終了。16年7~10月に宇宙に115日間滞在、日本人で初めて米国のシグナス補給船をアームでつかまえた。

パネル討論

 ――2020年は野口聡一飛行士が乗った米国の新型宇宙船の打ち上げが成功したり、小惑星探査機「はやぶさ2」がリュウグウの砂を持ち帰ったりと、明るいニュースが続いた一方、新型コロナウイルス感染拡大は収まりません。有人宇宙活動にも影響はあったのでしょうか。

 三丸敦洋・総括医長 アポロ計画の時代から感染予中川翔子さん防は重視されていて、2週間の隔離をして打ち上げていました。それでも、コロナはまだ特効薬がありませんから、日々の体調管理など感染リスクを下げることくらいしかできず、隔離に入る前も気を使います。飛行士を支援するスタッフを渡米させるのも一苦労で、2週間前から健康チェックをして、ちょっとでも異常がある人は外すつもりでやっていました。

 大西卓哉飛行士 飛行士の訓練も、リモートでできるものはリモートにしてしまおうという動きが主流になりました。以前は、日本にしか実験装置がない場合は、海外の飛行士も日本に来てもらって訓練していました。飛行士は世界中で訓練を受けるのが当たり前だったのですが、多くの訓練を中止せざるをえなくなった。その分、オンラインで訓練したり、宇宙で飛行士が参照する資料を手厚く準備したりして工夫しています。

 中川翔子さん もし宇宙で体調が悪くなったらどうするんですか。どのレベルになったら地球に帰らないといけないのでしょうか。

 大西 飛行士はみんな医療の訓練も受けていて、いざとなったら注射を打ったり、簡単な手術をしたりは私もすることになっています。本当に命に関わる状態だと帰還しないといけませんが、宇宙船が3人乗りなら3人一緒に帰らないといけないので、みんなに迷惑を掛けてしまう。なので、ちょっとぐらい悪くても素直には言わないです。僕らも人間なので体調に波はありますが、飛行士は「大丈夫です」と強がるような人が集まっていると思いますね。

 三丸 地上からは飛行士に問診するくらいしかできないんですが、最近は通信環境がよくなったので、顔色の微妙な変化を見たり、傷の具合を詳しく観察したりできるようになりました。昔とはずいぶん違います。もし実際に帰ってくることになっても、ISSから地上までの距離は400キロくらいですから、東京―大阪間みたいなものです。時間も4時間くらい。離島より近いですよ。

 中川 そう聞くと、だいぶ近く感じますね。

 ――しかし、月を探査するようになると、4時間では帰って来られません。新しい宇宙医学の算段が求められるのでは。

 三丸 月から帰還するには数日かかりますから、月基地を建設する将来には、医療施設もつくることになると思います。月には地球の6分の1とはいえ重力がありますので、手術もできるでしょう。ただ、月には地球のバンアレン帯のような、宇宙から飛来する放射線を遮ってくれる層がありません。施設内の放射線量をいかに下げられるかが大きな課題です。

 ――そんな月探査を目指す新しい飛行士の候補を今秋にも募集すると発表がありました。

 中川 最高に興味津々です。気になるのは年齢制限ですが、私はまだ間に合うでしょうか。

 大西 募集要項はまだ決まっていませんが、前回までは年齢制限はありませんでした。今、どんな風に選ぶかの意見募集をしているところです。これまでは大学の自然科学系学部を卒業し、3年以上の研究や開発の経験があることが条件でしたが、なくす検討がされています。たくさんの人が宇宙を目指す時代が来ると思うので、入り口で絞るのではなく、間口を大きくした選抜になるといいですね。

 中川 私は潜水艇で水深5千メートルに潜ったことがあります。深海と宇宙の両方に行った人類はほんの数人らしいので、ぜひ宇宙に到達したい。飛行士にはどうやったらなれますか。

 大西 私も宇宙に行くことが小さい頃からの夢でした。しかし、飛行士に選ばれても地道で大変な訓練が待ち受けていて、24時間楽しいことばかりではありません。夢の実現のために、いやなことや苦手なことが避けられないことはよくあります。今から振り返れば、子どもの時から苦手なことを頑張ってきた経験が自分を支えてくれていると思います。好きではないことも、あえて頑張ってみるということをぜひ心がけてもらいたいです。(三丸さんと大西さんの写真はJAXA提供。構成・小川詩織)

 ISSのような宇宙基地に長期間滞在すると、医学的にどんな課題があるのだろうか。JAXAの小川志保・きぼう利用センター長と、飛行士の免疫を高める研究をしているヤクルト本社の長南治・中央研究所研究管理センター所長が最新の研究内容を紹介した。

 ISSに向かう飛行士の多くは、宇宙に6カ月滞在することになる。微小重力下のため、骨密度が減ったり、尿路結石になったり、免疫機能が低下したりといった健康上の問題が生じやすい。狭い閉鎖環境でストレスを感じることによる精神的な課題、地上よりもはるかに多い宇宙放射線による被曝(ひばく)も大きな課題だ。

 飛行士が今後、月や火星などさらに遠くを目指す時代になれば、これらの対策はますます重要になる。

 長南さんらは、乳酸菌を摂取して腸内環境を改善することで、免疫機能が維持できるという地上での研究結果があることから、「宇宙でも乳酸菌が有効なのではないか」と考察。JAXAと共同で飛行士乳酸菌(L.カゼイ・シロタ株)を飲んでもらう実験を2017年から始めた。

 実験では、ISSに滞在する飛行士5人に地球へ帰還する1カ月前から乳酸菌を飲んでもらい、飲まなかった5人と唾液(だえき)や血液、排泄(はいせつ)物などを比較し、免疫への効果をみる。実験終了は22年度の予定で、結果が出るのはもう少し先になりそうだ。小川さんは「飛行士だけでなく、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や筋肉が減るような病気の予防にも生かせるのではないか」と期待している。

 みつまる・あつひろ

 防衛医大卒、慶応大医学研究科修了。厚生省疾病対策課課長補佐、防衛大学校衛生課長、自衛隊中央病院救急科部長、自衛隊阪神病院長兼川西駐屯地司令などを経て2018年から現職。飛行士の健康管理やJAXAのコロナ対策を担当。

 なかがわ・しょうこ

 歌手・タレント。小学生のときに買ってもらった図鑑「宇宙と天文」で木星の姿に感動し、宇宙好きに。朝日新聞のウェブメディア「telling,」で「中川翔子のナントカな日常。」を連載中。ツイッターのフォロワーは73万人超。

 ◇パネル討論のコーディネーターは科学医療部の東山正宜次長、司会はフリーアナウンサーの田村あゆちさんが担当しました。大西卓哉さんと三丸敦洋さん、小川志保さんはリモートで出演しました。