柑橘の香り溶け出す「レモンハマチ」 広島・阿多田島

西晃奈
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 世界遺産厳島神社のある宮島のすぐ南に浮かぶ、瀬戸内海の阿多田島(あたたじま)。この小さな島で、広島県産のレモンを搾ったえさで育つ養殖ハマチがいる。どんな姿で、どんな味なんだろう。島を訪ねてみた。

 ぶるんとした刺し身を口に入れた瞬間、ほのかな柑橘(かんきつ)の香りが鼻腔(びくう)をくすぐる。しょうゆもレモンも付けていないのに、かめばかむほど濃厚な甘さと隠れたさわやかさが溶け出した。

 ハマチはうまみが多く、DHA(ドコサヘキサエン酸)やカルシウムなど栄養価も高いが、弱点もある。切り身にすると時間の経過で酸化して褐色になり、鮮度が落ちやすい。その弱点をカバーしたのが「あたたハマチto(と)レモン」だ。

 育てているのは広島県の西端、大竹市阿多田島。2012年、えさに柑橘などを混ぜて香りをつける「フルーツ魚」を研究する高知大の深田陽久(はるひさ)准教授(49)は、県と大竹市の職員から相談を受けた。「広島の特産、レモンを使ったブランド養殖魚を開発したい」

 当時、阿多田島は県内で唯一、養殖ハマチを育てていた。だが、生産量は10年前の4分の1以下に落ち込み、えさの費用は増え、魚の単価は下がっていた。

 深田さんは13年から大学の水槽でレモンのえさの研究を開始。14年2月に阿多田島漁協組合長に会い、その真剣さに協力を決めた。

 レモンの香りがする原理はこうだ。水温が下がるとハマチは脂を蓄える。その時にレモンのえさをあげることで、脂に香り成分が蓄積される。だが、ハマチは寒すぎるとえさを食べず、水温10度を切ると死ぬ。何%のレモン成分で、どれだけのえさを与えればいいのか。試験を繰り返した。その結果、レモンの成分で褐色化や鮮度の劣化を防げることを確認した。柑橘の成分リモネンも検出された。

 本格的な生産と販売は16年から始まった。値段は1キロあたり1500円。通常の養殖ハマチの約1・5倍だ。1匹6500~8千円で、主に広島県内に出荷する。深田さんオススメの食べ方はフライ。柑橘のさわやかさが絶妙だという。

 漁協から生産を託されているのが、阿多田島の中森誠さん(61)。1月中旬の朝7時半。縦、横、深さ各12メートルの海上いけすに降り立った。約3500匹が泳ぐ中に大きな網を入れ、数匹ずつすくう。長さ70センチ、重さ5キロほどのハマチが暴れ、水しぶきが舞う。「ゴム手袋だと力が入らんけ」と、作業はすべて素手。300匹を引き上げた頃には2時間が経っていた。

 レモンハマチの良さを中森さんに聞いてみた。「脂っけが少なくてさっぱりしとる。まあ、まずは食べてみんさい」(西晃奈)

 阿多田島に渡る小方港近くの割烹(かっぽう)「宇恵喜(うえき)」(大竹市小方1丁目、電話0120・545・250)で、あたたハマチtoレモンの刺し身(税込み千円)を頂ける。しゃぶしゃぶ(2~3人前、送料別2500円)は全国発送も。いずれも旬は11月下旬~2月で、今季は売り切れ次第終了。