慣れると命綱なし、の危険 雪下ろし「やっぱり怖い」

有料会員記事

谷瞳児
[PR]

 新潟県が2021年度予算案に、雪下ろし時の命綱を固定する「アンカー」の設置費補助を新たに計上した。相次ぐ転落事故への対応だが、現状では対象が魚沼と十日町の2市に限られ、どこまで広がるかは見通せない。住民による命綱なしでの作業も定着してしまっているようだ。(谷瞳児)

 雪下ろし事故はなぜ多発するのか。新潟在勤2年目、雪国らしい冬を初めて体験した福岡出身の記者(24)が現場を取材した。

 大雪が続いた先月の後半、新潟県中部の長岡市川口地域を訪ねた。例年、冬の積雪が1・5メートルを超す地域だが、特に今冬は、訪ねた1週間前には2・5メートルにも達した。

 車道は除雪されていたが、路肩には2メートル近い積雪が残っていた。その横の歩道を、行き交う除雪車を横目に進んでいると、突然、ドサッ。わずか数十センチ後ろで、3階建て民家の屋根から直径約50センチの雪塊が落ちていた。車道を歩こうと決めた。

 越後川口駅から約500メートル離れた民家で、会社員の関克(せきかつし)さん(62)が雪かきをしていた。車庫前の積雪をスコップで流雪溝に放り込む。生まれも育ちも川口だそうで、豪雪には慣れっこと思いきや、「今年は疲れますね」と苦笑いだった。

「やっぱり怖いですよ」

 木造一部3階建ての自宅の雪下ろしは、この時すでに今冬3回。全て1人でしたという。屋根の面積は約200平方メートル。毎年の作業だが、「やっぱり怖いですよ」と話した。“スノーダンプ”と呼ばれる大型の雪かき用シャベルを持ち、滑りにくいわらじを履く。それでも、「落ちかけたことは何度もある」そうだ。

 10年ほど前、一部を融雪機能つき屋根に替えた。電気や灯油による熱で雪を溶かすもので、この地域では時折目にした。施工に約400万円、今冬の灯油代はこの時すでに約15万円。費用負担は小さくない。

 除雪業者への依頼は、あまり考えないという。請け負うのは土木や建設業者が多いが、大雪時は依頼が集中し、市から道路除雪を受託している業者も多い。なかなか見つからないのだ。「結局、できるところは自分でやる。そういうところが多いと思います」。そして、住民が屋根に上がることが大半だという。

 地元の土木建築会社・星野建設を訪ねると、その通りだった。昨年末から1月12日まで休日ゼロ。従業員6人が毎日、早朝から深夜まで道路除雪に追われた。星野照代社長(74)の自宅は屋根に2メートル近い積雪が残り、玄関先には「落雪注意」と書かれたパイロン。「自分の家をやる余裕がない。そろそろやらないと危ないのだけど……」と困っていた。

命綱はおろか、ヘルメットも...

 「毎年のことだから。もう慣れていますよ」と近所の女性が話していた。ともに80代の夫と2人暮らし。その夫が今もしばしば雪下ろしをするという。命綱はおろか、ヘルメットも着けないそうだ。長岡市によると、川口地域の高齢化率は38・5%(2019年10月時点)。その値は年々上がっている。雪下ろし事故の多くは高齢者だ。県によると、今年度の事故被害者の61%が65歳以上(22日時点)だった。

 この日の取材で6時間歩き回って見つけられなかったのがアンカーだ。星野建設もアンカー設置工事を依頼されたことがないという。

 ただ、アンカー設置が進まないと除雪業者も雪下ろしに手を出しづらい状況になっている。19年施行の改正労働安全衛生法で、高さ2メートル以上の除雪作業には、足場の設置か、命綱などの墜落制止用器具の装着が義務づけられた。来年は器具がさらに厳格化される。

 建築業者の業界団体、長岡建築協同組合は今後、市民から依頼されても雪下ろし作業の業者への仲介をやめる方針という。担当者は「作業で業者側に事故があった時、責任が取りきれない」と話した。

雪下ろし器具の費用、県が補助へ

 県は、従来の克雪すまいづく…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

【5/11まで】デジタルコース(月額3,800円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら