被曝と甲状腺がんの評価は 「見極めにあと5~6年」 

聞き手・福地慶太郎
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 福島県が原発事故後に始めた甲状腺検査で、これまでにがんまたは疑いと診断された人は、251人に上る。被曝(ひばく)の影響の有無をどう判断するのか。分析を続けている県の甲状腺検査評価部会長、鈴木元・国際医療福祉大学クリニック院長(放射線疫学)に聞いた。

 ――東京電力福島第一原発事故時に18歳以下だった県民らを対象にした甲状腺検査について、評価部会は今夏にも1~3巡目(2011~17年度)の分析結果をまとめる。

 「解析はしていないが、避難指示が出なかった浜通りの3市町(いわき市相馬市、新地町)で甲状腺がんやその疑いと診断された人が多い傾向だ。被曝(ひばく)線量と関係しているのか、他の要因の影響なのかは解析しないとわからない」

 「たとえば(医師が必要と判断したときに針を刺して細胞をとる)細胞診(さいぼうしん)の実施率が高いと、がんの発見率は上がる。10代後半になると甲状腺がんの人は自然に増え、どれだけ積極的に細胞診をやるかで発見率が変わる。地域ごとに実施率に差があれば発見率に影響しうる。放射線の影響かどうか、解析して確認する」

 ――被曝線量と発見率の関係はどう評価するのか。

 「これまでは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が推計した市町村や年齢別の甲状腺被曝線量の平均値を使い、がんの発見率との関係をみていた。今回はそれに加え、検査を受けた個人が提出した事故後の行動記録をもとに、推計した被曝線量での解析もする。記録を未提出の人は市町村の平均値を使うが、浜通りは提出率が高めで、ほかの地域よりも個人ごとの線量を把握できそうだ」

 ――今夏にもまとめる報告で、事故の影響で甲状腺がんが増えたかどうか、結論が出せそうか。

 「線量が高い人たちほど、がん発見率が高い傾向が見えてくるかもしれないが、統計的に有意に増えたと言えるかどうかは、解析をしないとわからない」

 ――検査について、命を脅かさないがんを見つける「過剰診断」が起こっている、との批判もある。

 「過剰診断かどうかを言えるだけのエビデンス(科学的根拠)はまだない。命を脅かさないがんだが再発が多いので、早期治療のメリットが期待できる。エビデンスを得るには、がん発見後、ある人は手術し、別の人は経過観察にして比較する研究が必要だが、倫理的に不可能だ。だから、がんの大きさやリンパ節転移の有無など、どの段階までは経過観察でよく、どの段階で手術するのがいいのか、結論が出ていない」

 「現場では学会のガイドラインに沿って対応している。『ガイドラインに沿って適切に対応している』と言う人もいれば、『過剰診断だ』と批判する人もいる。どちらの主張も理解したうえで検査を受けるかどうか、対象者が判断しなくてはならない。そのために、説明文書を改訂した」

 ――改訂文書でデメリットを強調し、受診者を減らすことで被曝の影響を見えにくくしようとしていないか、疑念を持つ人もいる。

 「そんな考えはない。メリット、デメリットを理解して受診を判断してもらうための文書改訂だ」

 ――検査をいつまで続ける必要があると思うか。

 「放射線疫学の研究者としては、被曝の影響を見極めるため、あと5~6年は検査結果を注視したい」

 ――なぜ5~6年後か。

 「その時期は、震災時5歳以下の人が高校に在学か卒業するころだ。5歳以下は、他の世代と比べて一番放射線の影響が出やすい。甲状腺が小さく、上の世代と同じ量の放射性ヨウ素を甲状腺に取り込んでも、より被曝の影響が大きい。さらに、感受性(放射線の影響を受けやすさ)も高いからだ」

 ――なぜ高校生になる時期までなのか。

 「高校を卒業すると受診率が極端に下がる。検査してもあまり受診者が集まらないため、影響をみるには国の統計を使わざるを得ないだろう。ただ、検査をいつまで続けるかは、県民が決めることだ」(聞き手・福地慶太郎

 すずき・げん 1975年、東京大学医学部卒業。放射線医学総合研究所や放射線影響研究所を経て、国際医療福祉大学クリニック院長。17年から県の甲状腺検査評価部会長。放射線疫学や放射線病理学が専門。