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#コロナを生きる言葉集

 バーは夜の病院(東京・新宿のバー店主が大切にしている言葉)

 昨年5月、緊急事態宣言下のある夜。東京都新宿区の路地奥にあるカウンターとテーブルが三つの小さなバーで、店主(48)は静かに話しはじめた。

 「20年ぐらい前、『バーは夜の病院』って言葉をお客さんにもらったんです」

 嫌なことがあった日や、なんとなくそのまま家に帰りたくない気分の日。グラスを傾けながら1人で考えたり、なじみの店主と話したりして、気分を変えてから家に帰る。そんな場所が必要だと信じ、この言葉を胸に営業してきた。

 2011年の3月11日、東日本大震災があった日の深夜にも、住宅街も近いこのバーにはぽつぽつと人が集まってきた。「ああ、開いてて良かった。会社から歩いて帰ってきたんだ、1杯だけ飲ませて」と一息つく人が何人もいた。その後も夜な夜な、「家に1人でいると怖くて」と客が店に集った。

 コロナ禍は、そうした不安ともまた違う恐怖を店にもたらした。深夜営業が中心のため、営業時間の短縮で売り上げは激減。店内の消毒費用にも苦しめられた。昨夏以降に少し客足が回復すると、団体で来る客をどう扱うかにも悩んだ。地道にこつこつと続けてきた店だったが、「このままやっていけるのだろうか」という気持ちを初めて抱いた。

 年明けに再び緊急事態宣言が出され、今度は店を閉めることに決めた。もちろん経営は苦しく、自身も眠れない日々が続く。だが、「医療従事者の方の悲鳴が聞こえた気がして」。夜の病院の出番が来る日を、じっと待っている。

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 誰もが経験したことのない日々が続いています。様々な立場、場面の言葉を集めます。明日に向かうための「#コロナを生きる言葉集」。