「生きていてさえくれれば…」自立支援、母の後悔と願い

特別報道部 高橋淳
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 関東近郊で暮らす女性(81)には、近ごろ3人の若い友人ができた。

 いずれも30代の男女で、ラインやメールでつながり、コロナ禍の中での互いの健康を気遣う。「息子とも、もう一度こんなふうに話せたら……」

 若い友人たちには共通の経験があった。それは、家にひきこもるなどし、「引き出し屋」と呼ばれる自立支援業者に連れ出され、施設に入らされたことだ。暴力的な連れ出しや監禁の被害に遭ったとして、裁判に訴えたりその準備をしたりしている。彼らとはその支援の集まりなどで知り合った。

 女性の長男も26歳から約20年間、自宅にひきこもっていた。市役所や保健所、家族会とあらゆる場所に相談に行ったが、何も変わらず月日が過ぎた。5年前に夫が他界して長男と2人暮らしになった女性は、ネットで見つけた民間業者に相談。担当者に「長期化、高齢化するほど解決が難しくなる」と迫られ、契約を結んだ。

 自宅を売り、最終的に支払った費用は1300万円にのぼったが、入所から約2年後、長男は研修先として赴いていた熊本県内のアパートで、ひとり亡くなっているのが見つかった。冷蔵庫は空で餓死も疑われたが、業者に事情を尋ねても要領を得ず、お金はおろか衣服などの遺品も戻らなかった。

 女性のことは、デジタル版と紙面に書いた連載「#ひきこもりのリアル 『引き出し』ビジネス」で業者の実態とともに紹介した。1年余りを費やした取材では、いじめやパワハラなどで心が傷つき、安全地帯に避難するようにひきこもった当事者にも多く出会った。一方、行政や福祉の支援はまだ不十分で、悪質な民間業者がはびこる。「部屋を出ろ」「現実を知れ」と当事者を責め、かえって傷を深くする。

 女性の長男も、穏やかで争いを好まない性格だったという。「生きていてさえくれれば、それだけで良かったんです」。後悔と自責の念にかられながら暮らす女性の願いは、若い友人たちが傷ついた心を癒やし、この社会で自分らしく生きてゆくこと。それを優しく手助けできる仕組みがあればいいのに。長くかかった取材の最後に、そう話していた。(特別報道部 高橋淳)