過疎のまち走る 期日前投票所 投票日は送迎も 石川

沼田千賀子
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 投票箱を積んだ車で住民のもとに出向く「移動期日前投票所」が、石川県内でも導入される。同県小松市は3月の市長選で、同県輪島市は今年10月に任期満了を迎える衆院選で導入予定だ。背景には、過疎地人口減少行政改革による投票所の減少がある。

 小松駅(小松市)から南東に車で約20分。小松市松岡町の山あいの集落に、松岡町公民館はある。中は畳敷きの大広間で、選挙のときには松岡町と隣の池城町に住む有権者の投票所として使われてきた。だが、投票所の統廃合の対象となり、3月21日投開票の市長選からは使われず、県道を通って3キロ先の別の投票所に行くことになる。

 この2地区の人口は20年間で4割以上減って48人に。選挙人名簿に登録されているのは45人。地元では立会人の確保に苦労してきたという。松岡町の町内会長、松崎政彦さん(66)は、「平日は働いて土日に田んぼ、という人が多い。目と耳と足腰が何とかなる高齢者にお願いするしかないが、毎回同じ人には頼みにくい」。松崎さんも平日はガソリンスタンドで仕事、週末は田んぼの作業があるため、引き受けるのは難しいという。

 市選管によると、期日前投票の浸透もあり、有権者の少ない投票所では投票日に投票に来る有権者が10人以下のところもあるという。市は住民の負担軽減や効率化のため、人口の少ない山間部で投票所を統廃合し、市長選から投票所の数を42から38に減らす。

 松崎さんも「投票に来る人が少ない投票所に立会人や市職員をずっと張り付けておくより、近くの投票所と統合した方が合理的」という意見だ。松崎さんが気になったのは、地区のお年寄りのこと。一人暮らし、あるいは高齢者だけの世帯で、車を運転できない人もいる。

 そこで市が提案したのが移動期日前投票所だ。市内を走るコミュニティーバス「こまちスマイル木場潟号」に投票箱を積み、投票所が廃止された地区の5カ所を回る予定。1カ所につき1時間~1時間半停車し、車内で投票してもらう。投票日当日の送迎といった移動支援も検討中という。

 同県輪島市も次の衆院選から、投票所を42カ所から20カ所に減らす一方で、ワゴン車を使った移動期日前投票所で、投票所が廃止された地区を中心に回る。有権者の減少や高齢化で立会人などが選びにくいことに加え、行政改革で市職員が2006年の合併時から2割強減り、投票所の事務で、保育所職員など行政職以外の職員も動員する状況になったためだ。また、投票日当日に、投票所のなくなった地区と新しい投票所を結ぶバスも運行予定だ。

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 全国でも移動式の期日前投票所の導入や投票所への送迎が進む。総務省によると2019年夏の参院選で移動式の期日前投票所を導入したのは33自治体。投票所への送迎などの移動支援を実施したのは247自治体だ。

 島根県浜田市では16年の参院選で、全国に先駆けて車を利用した移動期日前投票所を導入した。05年の合併当初は105カ所あった投票所を、段階的に70カ所にまで減らしたことがきっかけ。現在は公用ワゴン車で2日に分けて10カ所を巡回。1カ所につき30分~1時間停車して、車内で投票してもらう。

 島根県知事選と衆院選で、投票所が統合された地区の投票率を移動期日前投票所導入前後で比べたところ、どちらの選挙でも導入後は下がった。ただ市の担当者は「もともと投票率を上げるために始めたわけではなく、投票所が維持できなくなったことで投票機会が失われないための取り組み。投票者の約半分は移動期日前投票所を利用しており、必要な制度だ」と話す。

 富山、福井両県内では移動期日前投票所を導入した自治体はない。ただ、富山県魚津市福井市のように、投票日に、投票所を統合した地区と新しい投票所を結ぶ無料巡回バスを運行するといった移動支援をしている事例はある。

 明治大学政治経済学部の牛山久仁彦教授(地域政治論)は移動期日前投票所の導入は、投票所の維持が難しい場合の措置として有効としながら、「一部の人しか知らない状態にならないよう、導入には周知の徹底と公平性の担保が必要」と説く。また、投票所への送迎は「例えば長時間の自立歩行が困難な高齢者を対象に送迎をするなら、対象者の基準や申請方法を明確にして公平性を保つことが大事だ」とも話した。(沼田千賀子)