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 歴史的な首位交代は免れた。県内の昨年の荒茶生産量が、鹿児島県の猛追をかわし、からくも全国トップを維持した。しかし、人気面では、すでに九州勢に後れを取っているとの指摘もある。ライバルの攻勢に、土俵際から巻き返せるか。

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 業界注視の結果は、痛み分けだった。今月19日、2020年荒茶生産量の農林水産省データが発表された。静岡2万5200トンに対し鹿児島2万3900トン。コロナ禍などで両県とも減産となり、順位は変わらずだった。

 「NO1の座は譲れない」と力を込めるのは静岡県茶商工業協同組合の佐々木余志彦理事長。首位堅持に安堵(あんど)しつつ、その差は前年より縮まった。業界団体のトップとして「やるべきことはいっぱいある」と巻き返しへ覚悟を口にした。

 ルーツは800年前、中国から種を持ち帰った高僧が始めたとされる静岡茶。県内生産量は1965年から全国1位をキープしているが、最盛期の1975年の約5万3千トンと比べ、現在は、その半分以下に過ぎない。

 なぜ衰退したのか。栽培農家は、地形的な特徴と厳しさを増す労働環境をあげる。県内の茶畑は急斜面にあるところが多く、大型機械が入りにくい。人力が頼りだが、後継ぎ不足の中、生産者の高齢化で作業ができず、耕作地を放棄する例が相次いでいるという。

 価格の低迷も深刻だ。2011年の東日本大震災による福島第一原発の事故後、国の基準を上回る放射性物質が検出されて落ち込んだ取引値は回復していない。マイナス要因が重なり、「首位転落は時間の問題」という危機感は業界内外に広がる。

 対する鹿児島は勢いが止まらない。元々は、静岡への原料供給基地に過ぎなかったが、ここ数年は平地を生かした機械化による大量生産や統一ブランド「知覧茶」などの生産を推進。ペットボトル飲料用を中心に市場シェアを伸ばす。栽培面積も増え、官民あげて「静岡に追いつけ追い越せ」と鼻息も荒い。

 地盤沈下が続く静岡茶だが、一方でブランド力は衰えない。国内で最も権威があるとされる全国茶品評会では最高賞の常連であり、「高品質で洗練された味」と業界内の評判は根強い。「お茶といえば静岡」のうたい文句は、農業団体や茶葉の研究者などプロの目利きの間では健在だ。

 しかし、消費者の反応となると様相が異なってくる。一般の人が味を審査する「日本茶AWARD」。この全国規模の大会で、静岡茶は最高の大賞に一度も輝いたことがない。過去6回の大会では長崎や福岡県など九州の業者がほぼトップを占めている。

 主催するNPO日本茶インストラクター協会の担当者はこう評する。「静岡のお茶は渋くて香りもよく、バランスが取れている。でも際立つ特徴がない。九州のお茶は甘くて個性的」。品質では絶賛される静岡茶だが、多様な消費者の嗜好(しこう)をつかみ切れているのか。検証の余地は少なくない。

 苦境に立つ伝統産業。復活への模索が続く中、「日本一」を守ろうと新たな試みを始める人たちもいる。

 「足久保ティーワークス茶農協」(静岡市葵区)は、担い手不足解消へオーナー制に乗り出す。傾斜地に集中する茶畑の維持管理のため、1口1万8千円の出資を外部から募り、労働力確保の原資に充てる。返礼は茶摘み体験や茶製品の贈呈だ。足久保は県内で初めて栽培が行われた静岡茶発祥の地とされる。吉本邦弘組合長(58)は「歴史ある産地をなくしたくない」と訴える。

 創業105年の本山製茶(同)は、レトルトの「お茶カレー」を発売した。静岡市内の人気スリランカカレー店と協力。厳選スパイスに高値で取引される一番茶の香りや風味を加えた。「お茶は急須で飲むだけじゃない。もっと自由な提案があっていい」と5代目の海野桃子社長(44)。静岡茶の新たな魅力を引き出し、次代に継ぐのが老舗の使命だと思っている。(中村純)