10年前の東京電力福島第一原発事故でも、いまの「コロナ禍」でも、課題の一つと指摘されるのが政府の危機管理・危機対応のあり方だ。どう検証し、今後の対策に生かせばいいのか。原発事故の「国会事故調査委員会」の委員長を務め、現在は政府のコロナ対策に関わる黒川清・政策研究大学院大学名誉教授に聞いた。
くろかわ・きよし 1936年生まれ。医師。米カリフォルニア大ロサンゼルス校と東大医学部の内科学教授、東海大学医学部長、2003年~06年日本学術会議会長を歴任。
――黒川さんはコロナに関する政府の「AIシミュレーション・アドバイザリーボード」委員長を務めています。ボードはもともと、PCR検査や学校休校など、コロナ第1波の政府対応の検証が目的でした。検証できましたか。
「ボードは昨夏、私や京都大教授の山中伸弥さんら4人を委員として、設置されました。ある日、委員長を引き受けてほしいというファクスを受け取り、担当する西村康稔・経済再生相に詳しい話を聞きに行くと、すでに五つの分科会が下にぶらさがる構造ができあがっていて、4人にはより高い立場からご意見をいただきたい、と言われました」
「これまで、人工知能やスーパーコンピューター『富岳』を使って、ウイルスの飛散などのシミュレーションを実施してきましたが、第1波の検証をしたわけではありません。それに役所がすべてを取り仕切る構図の組織です。過去の政策を検証しない限り次の政策は打てないのですが、政府が設置した組織に、真の意味で政府の施策の検証はできません」
――福島の原発事故の際の国会事故調とは違いますか。
「原発事故の直後、私は政府の対応に大きな懸念を抱いていました。政府の発表と、実際に福島で起きているらしいことと、海外のメディアの報道などがかなり違うことがあったからです。欧米などから大きな注目を集める中で、このままでは日本政府の国際的な信頼が失墜すると感じ始めました。そこで、政府から独立した調査委員会をつくって事故対応を客観的に検証し、世界に発信すべきだと考えました。学問の世界にいる人間の責任として、海外のアカデミーの人たちと情報交換をしながら実現可能性を検討しつつ、国会議員にその意義を説いて回りました。委員長就任の要請を受けたのはそんな経緯からなのでしょう。活動が正式に始まったのは辞令を渡された2011年12月8日。そして『ほぼ6カ月後までに』結論を出すよう求められました」
「国民の代表からなる立法府で…
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