第4回血塗られた母・ナウシカの闇と格闘した赤坂憲雄の25年
宮崎駿監督が12年以上の歳月をかけて世に問うた漫画『風の谷のナウシカ』。私たちは今、「腐海(ふかい)」を生きるナウシカたちのように、マスクを手放せない日々を過ごしています。『ナウシカ』は、苦境にある私たちにどんな希望を指し示してくれるのか。宮崎監督も愛読している『ナウシカ考 風の谷の黙示録』を著した、民俗学者の赤坂憲雄さんに読み解いてもらいました。
【連載】コロナ下で読み解く 風の谷のナウシカ(全22回)
宮崎駿監督の傑作漫画「風の谷のナウシカ」は、マスクをしないと生きられない世界が舞台です。コロナ禍のいま、ナウシカから生きる知恵を引き出せないかと、6人の論者にインタビューしました。スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー、民俗学者の赤坂憲雄さん、生物学者の福岡伸一さん、社会学者の大澤真幸さん、映像研究家の叶精二さん、漫画家の竹宮惠子さんの6人が、それぞれの「ナウシカ論」を語り尽くします。
(この記事は漫画『風の谷のナウシカ』の内容に触れています)。
漫画を読むと、映画版は「人間と自然の共生」などとは思えない
――赤坂さんは、25年もの歳月をかけて漫画『ナウシカ』を読み込まれたそうですね。漫画と映画、二つの「ナウシカ」のテーマは共通しているのでしょうか。
「そこは微妙です。映画は非常に大きな反響があり、宮崎監督にとっても大切な作品だと思います。ただ、2時間の映画にまとめるために、漫画版の設定や物語を大幅に簡略化せざるをえなかった。『少女がエコロジーの使徒となり、自らを犠牲にして世界を救済する』というシンプルなイメージで受け取られた面があります」
「宮崎さん自身は、映画の内容について納得できないことがたくさんあった、と話されています。それらの問題をひとつひとつ、突き詰めていったプロセスそのものが、全7巻の漫画版なのだと思います」
――漫画版で、宮崎監督は何を目指していたのでしょうか。
「『ナウシカ』という作品については、そういう問い自体がなりたちません。宮崎さんの問題意識が、登場人物の対話などを通じてどんどん膨らみ、物語自体が予想もしなかった方向に転がっていく。連載当時に起きたチェルノブイリ原発事故や冷戦の終結、ユーゴスラビア内戦などの出来事も、物語を動かす要素になっていたと思います」
「宮崎さん自身、連載終了直後のインタビューで、『こういうふうにしたい、じゃなくて、こうなっちゃう』『ものを作る主体というより、ただ後ろからくっついていっただけ』と話しています。宮崎さんの巨大な無意識が充満しているのが最大の魅力です。近年のエンターテインメントで主流の、心地よい予定調和の物語だったら、すぐに古びてしまったでしょう」
「映画だけしか見たことのな…
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