「ない」はずだった公文書が、じつは「ありました」――。
化学物質による水質汚染問題を取材していた私は、この2月、東京都水道局からそのような知らせを受けた。折しも国会では、学校法人森友学園の国有地売却問題をめぐって、存在する公文書を「ない」とした財務省の対応が厳しい追及を受けていた。
公文書の存在を簡単にごまかせるような情報公開制度では、国民の「知る権利」を守ることはできない。「ない」公文書はなぜ「ある」に変わったのか。経緯を報告する。
2年前の春に取材をはじめたきっかけは、沖縄の米軍基地周辺などで化学物質による汚染が問題になっていると知ったことだった。米軍横田基地がある東京都多摩地区でも同じことが起きているかもしれない。そう考えて調べはじめた。
汚染の原因とされていたのは、航空機火災を消すための泡消火剤に含まれる「有機フッ素化合物」という化学物質だった。
代表的なものは「PFOS」(ペルフルオロオクタンスルホン酸)や「PFOA」(ペルフルオロオクタン酸)と呼ばれる。耳慣れない名前だが、フライパンや防水スプレーといった生活用品にも使われ、とても身近なものだ。
自然界には存在せず、分解されにくい。いったん環境中に出ると土の中に永く残り、地下水を汚染し続ける。
健康への影響については医学的な評価は定まっていないが、米国ではPFOAが精巣がんや腎臓がんのリスクを高めるという疫学調査の結果もある。また、体内に取り込まれると半分に減るまでに数年かかってなかなか消えないことから、「永遠の化学物質」とも呼ばれているという。
取材を進めると、東京・多摩地区では、飲み水の水源に地下水が使われていることがわかった。しかも、多摩川から高い濃度のPFOSが検出され、多摩地区が発生源の可能性が高いとする研究報告が2003年以降にいくつか出ていた。
都民の飲み水を管理する東京…