川勝平太知事の政治手法を検証 静岡

宮川純一 阿久沢悦子
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 静岡県川勝平太知事の3期目の任期が今夏で終わる。学者知事として多弁で議論を好む一方、暴言ととられる発言や極論も目立ち、「いらない対立を生んでいる」という批判も生んだ。人事では国からの出向を断り、継続性や機動力を重視した半面、女性管理職の登用は進まず、高齢の男性学者を要職に置き続けるなど硬直性がみられる。二面性のあるその政治手法を検証した。

 この数年間、県政で大きなテーマとなったのがリニア中央新幹線の静岡工区の建設問題だ。

 「現場主義」を掲げる知事は昨年、南アルプスの山中にあるリニア工事の現場に通った。6月に記者が同行した時は寒さと曲がりくねった道に一時、体調を崩したほどだ。その後の朝日新聞へのインタビューで知事は「政治家が現場に足を運ぶことは、学者がフィールドワークを行うことと同じ」と説明した。

 理念も前面に出して政策を進める。ユネスコエコパークになった南アルプスの広大な自然を念頭に「環境の世紀」と打ち出した。コロナ禍では、地域経済圏の「フジノミクス」をアピール。首都圏、中京圏ではない山梨、長野などの隣県とのつながりを強めている。

 一方で強いリーダーシップには負の側面が生じるときもある。

 知事は語彙(ごい)が豊富なのか、ときに激しい言葉で相手を批判する。リニアの問題では、一部の学者や官僚らに対し「御用学者」「恥を知れ」などと容赦ない。

 当然、同じくらい強い反発を招き、足をすくわれることもある。

 菅義偉首相らによる日本学術会議への任命拒否では、記者会見で「教養のレベルが露見した」などと酷評。だが、菅首相の学歴のとらえ方に誤りがあったため、発言の一部撤回に追い込まれた。

 論点が拡散する傾向も不評だ。リニア建設には賛成とは言いながらも、最近は不要論とも取れる発言も入り交じる。コロナ対策でも、昨年6月の全国知事会などでワクチン開発の必要性を強く訴えたが、国の施策としてうまく結びつけることができなかった。

 知事の言動は自由奔放で、ときに毀誉褒貶(きよほうへん)にも見える。自民党の県議らの不満は高まる一方で、一触即発の様相だ。今年2月の県議会では、年末年始に長野県に滞在したことが危機管理の面で問題視された。

 川勝知事は2009年7月に就任以来、教育政策を拡充。県立の大学をつくり、文科省所管の県立大学は全都道府県で最多の四つになったが、短大で定員割れも起きる。コロナ禍も加わり課題は山積みだ。

 川勝知事の好きな言葉に五箇条の御誓文がある。「広く会議をおこし、万機公論に決すべし」は口癖だ。リニア建設、コロナ禍という大きな課題を前に「公論」は川勝知事をどう評価するのか。知事選は2カ月後の6月3日に告示される。(宮川純一)

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 川勝知事が当選した2009年度の県職員の女性管理職比率は6・1%。21年度は12・8%へと増えたが、県が目標としていた15%には及ばなかった。しかも部長級は0~2人で推移した。

 今年3月17日の人事に関する会見で川勝知事は「入庁してくる職員の女性の割合が上がってきている。時間が解決する」と述べた。一方、一定の割合を女性に割り当てる「クオータ制」や積極的に格差を解消する「アファーマティブ・アクション」については「無理な抜擢(ばってき)をすると従来の組織にあつれきが生じかねない」と否定的だった。

 前任の石川嘉延知事は、厚生労働省から出向してきた女性を2代にわたって、副知事に据えた。だが、川勝知事は副知事を3人に増やした時期にも、女性の登用はゼロ。12年に県議会で早川育子県議(公明)から「女性副知事の検討を」と迫られた際、川勝知事は「女性職員の得意分野は健康福祉。その部局長として徐々に実力をつけて、初めて全体統括する副知事になれる」と答弁した。

 早川県議は「県庁内に優秀な女性はたくさんいると認識している。知事は(女性管理職比率の)目標に沿うように、もっと努力してほしい」と残念がる。

 新型コロナウイルスの影響で女性の自殺が急増していることなどを受け、県は今年2月、全庁を挙げて女性を応援するキャンペーンを始めた。鈴木節子県議(共産)は「女性を応援します、と宣言する部長級が全員男性。異様ですよ。もっと女性の目線に立った施策が必要なのに」。

 NPO法人男女共同参画フォーラムしずおかの理事で元常葉大教授の居城舜子さんは「静岡は民間の女性管理職も少ない。県や市が率先して女性を管理職に引き上げ、風土を変えないと」と指摘する。川勝人事について「女性を副知事に置くより、中央省庁からの出向を拒否する方が優先順位が高い。それはそれで一つの見識」としながらも、「男性の価値観で人事考課がなされると、女性は低く見積もられがち。自然増を待つのではなく、アファーマティブ・アクションを採用するべきだ」と話した。

 一方で目立つのが、高齢の学者男性の重用だ。4月から県立大の学長兼理事長に就くのは元京大総長の尾池和夫氏(80)。2月の会見で記者から「御年80歳に強力なリーダーシップを求めるとは?」とたずねられ、川勝知事は「尾池先生は先日、亡くなった有馬朗人先生より10歳若い。60代後半ぐらいからは(いつまで現役か)個人差がある」とかわした。

 京大特別教授の本庶佑氏(79)は4月に開学する静岡社会健康医学大学院大学の法人顧問に就任。川勝知事は全国知事会でも、国産ワクチンの実現やPCR検査用ロボットの導入などをめぐり、「本庶先生のお話では」とたびたび知見を引用している。

 県教育長で県立大名誉教授の木苗直秀氏(78)も4月から3期目に再任された。木苗氏は「学校統廃合などやりかけの課題があるので、もうちょっと残ってくれないか、と知事に言われた」と明かす。県の教育行政のトップで激務だ。「続投は大丈夫か」(県幹部)と心配する声もある。(阿久沢悦子)