油とコレステロール値、健康な人は気にしなくても大丈夫

大脇幸志郎
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 寒さが和らぎ、今年のお花見は行けるのかなと、そわそわしてきた方もいるのではないでしょうか。ともすれば楽しく飲んで食べること自体が不謹慎と思われがちな世相ですが、なんとか自粛疲れから解放されて楽しみたい方を、この連載は小声で応援します。

 さて、不謹慎な食べものといえば、揚げものは「体に悪い」と思われがちです。体に悪くても好きなら食べればいいと思いますが、実際のところ、揚げものはそんなに体に悪いのでしょうか。揚げものに使う油に注目してみます。

 まず、「油は太る」というイメージはないでしょうか?

拡大する写真・図版「油は太る」とダイエット中の人には敬遠されますが……=鬼室黎撮影

 たしかに脂質は重量あたりのエネルギー量が多いのでたくさん食べれば太るでしょうが、たくさん食べれば炭水化物(糖質)でも、たんぱく質でも同じことです。実際、平均的な日本人の食生活では、脂質よりも炭水化物から多くのエネルギーを摂取しています(*1)。

 そこで炭水化物を減らそう、という発想がいわゆる糖質制限ダイエットだと思うのですが、食事全体のエネルギーを一定とした場合、糖質を減らすとはすなわち脂質とたんぱく質を増やすことと同義ですので、糖質制限を信じるなら「油をとっても太らない」と言ってもいいはずです(実際、糖質制限ダイエットは「肉なら食べてもいい」と説明されることがあります)。

 脂質も糖質も減らしてササミばかり食べるのは、筆者が20kgあまり減らしたときの経験から言えば、とてもじゃないですが持続不可能です。ふだんと同じメニューで量を減らしたほうがまだ楽でした。

拡大する写真・図版揚げたての唐揚げは、とてもおいしいです

 さらに、油ものの連想で語られがちなのが、脂質のコレステロールです。

 コレステロールは脂肪ではありませんので、台所の油にはコレステロールがほとんど含まれていないのですが、なぜか大きな字で「コレステロールゼロ」と書かれているのを見ると不思議な気持ちになります。

 ではどんな食品にコレステロールが多いかと言うと、これは正確に知っていても意味がありません。

 厚生労働省が作った「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、「コレステロール摂取量がそのまま血中総コレステロール値に反映されるわけではない」ので「目標量(上限)を設けるのは難しいと考え、設定しないこととした」とされています。細かく計算しても、目標量がないので意味がないのです。

 また、血液検査コレステロール値も、大半の人には関係ありません。

 コレステロール値を下げる薬の臨床試験からデータを集めた解析(*2)では、薬によってどれくらい心筋梗塞(こうそく)や脳卒中などの病気を防げたかが試算されています。ある基準でコレステロール値を下げることで、1年以内に発症する病気がどれくらい減るか、という形で計算されました。

 前提として、病気に結びつくのはコレステロールだけではありません。年齢が最大の要因ですし、以前に病気を経験している人では再発がよくあります。

 このような要因をいくつか組み合わせると、リスクが高い(と予想される)人とリスクが低い人を区別できます。

 もともとリスクが高い人ではコレステロール値を下げることで予防効果が比較的強く表れますが、リスクが低い人では下げても下げなくても病気が少ないので、差が小さくなります。

 ではその差はどの程度だったのでしょうか。

 最もリスクが高い人で、コレステロール値を下げなければ9.82%、下げれば7.64%の人に病気があるというものでした。その差は2.2ポイントほど。最もリスクが低い人では0.2ポイントほどの差でした。

 薬の効果で差が0.2ポイントということは、99.8%の人は1年以内の結果が変わらないということです。長年積み重なれば大きな違いになるかもしれませんが、短期的にはほとんど違いがありません。

 この数字は、薬を試す対象とされる程度には病気となるリスクがある人についてのものです。つまり、この研究で「リスクが低い」と呼んだ人でさえ、すべての人の中では比較的リスクが高い人なのです。

 さらにリスクが低い、若くてなんの持病もない人には、コレステロール値による健康効果はまったく無視できるほど小さくなっていくと予想できます。

 まとめます。コレステロール値は、リスクが低い人にとってはほとんど無視していいものです。しかも、食事のコレステロール量は血液のコレステロール値にそのまま反映されません。さらに、コレステロールは脂肪ではありません。だとすれば、「油は体に悪い」という連想は、「風が吹けばおけ屋がもうかる」と言っているようなもので、合理的ではありません。

 難しくなってきましたね。あるのかないのかわからない健康効果よりも確かなことは、油はおいしいということです。たとえなにかの意味で体に悪かったとしても、揚げ物をおいしく食べて楽しく過ごせるなら、それでいいのではないでしょうか?

*1 令和2年国民健康・栄養調査。

*2 Lancet 2012;380(9841):581-590.(大脇幸志郎)

大脇幸志郎

大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)

1983年、大阪府生まれ。2008年に東大医学部を卒業後、「自分は医師に向いているのか」と悩み約2年間フリーターに。その間、年間300冊の本を読む。その後、出版社勤務、医療情報サイト運営を経て医師に。著書に「『健康』から生活をまもる」、訳書に「健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭」。