カズオ・イシグロさん新作語る AIとゲノム編集の未来

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構成・板垣麻衣子
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 2017年にノーベル文学賞を受賞したイギリスの作家カズオ・イシグロさんが、6年ぶりの新作小説『クララとお日さま』(早川書房)を刊行した。作品ごとに舞台や時代設定を変えつつ、常に人間の心のあり方を見つめてきた作家のノーベル文学賞受賞後第1作には、科学技術がもたらす不安や、格差が深刻化する現代社会への問題意識が映り込む。2日の世界同時発売に合わせ、ロンドンの自宅からオンラインで日本メディアの合同インタビューに応じた。

1954年、長崎市生まれ。5歳の時、両親と渡英。82年長編『遠い山なみの光』でデビュー。89年、『日の名残り』で英ブッカー賞。『わたしを離さないで』(2005年)は映画化され、日本ではドラマにもなった。2017年、ノーベル文学賞

 ――AI(人工知能)が主人公です。着想はどこから。

 「元々、小説にするかどうかとは関係なくAIには興味がありました。主人公のAIであるクララは、ティーンエージャーが寂しくないようにそばにいる友人役としてつくられたロボットですが、人間が感じる孤独とは何か、愛とは何かという問いを持ちます。人間ではない彼女には『孤独』や『愛』がわからないので、一生懸命それを理解しようとする。AIを語り手として据えることで、かえって人間とは何かということが浮き彫りになると思いました」

 「クララというキャラクター自体は、子どもの本にインスパイアされています。4、5歳以下の本当に小さな子ども向けの本です。そういう児童書では、主人公が動物だったりおもちゃだったり、あるいは人形だったりしますし、月が言葉を話せたり、空に手紙を出したりという超現実的なロジックが許されます。そういう子ども向けの物語を大人がつくるときの感情にも興味があって、大人は子どもを厳しい現実から守ってやりたいという気持ちがある一方で、これから経験する世界について警告を与えたいという思いもある。その引き裂かれた気持ちに心を打たれます」

 ――ソーラーパワーで動くクララは、太陽を信仰しています。人間が神に抱く信仰心に近いのでしょうか。

 「人間が神に抱くような複雑な信仰と言えるかどうかは分かりませんが、似たようなものとして書きました。この信仰心によって、クララは最後までジョジー(クララの持ち主の家族の娘)が助かると信じ続けることができます。先ほどクララというキャラクターは児童書から着想を得たと話しましたが、クララがこうやって信じ続けられるのも、彼女が少しだけ開いたドアの隙間から世界を見るような、限られた視野の中で大きな結論を導こうとするからです。これは子どもが常にやっていることで、子どものロジックというのはそういうことです」

 「この小説を書き始めるずっと前のことですが、あるときAIの専門家と話していて面白いと思ったのが、すでに囲碁を打ったら人間を負かせるAIでも、例えばコーヒーをいれるというような人間にとっては簡単なことができないのは驚きだという話でした。ある部屋でコーヒーをいれることを学んでも、窓や冷蔵庫の位置など部屋の様子が少し違うだけで動作が再現できない。多くのことで人間よりも優れているにもかかわらず、人間にとって簡単なことができなかったりする。この無知な部分と知的な部分を同居させたキャラクターを生み出すことができるというのは面白いと思いました」

記事の後半では、小説を書き続ける理由や、ノーベル賞受賞後の心境を語ります。

 ――心とは何かという問いが大きなテーマですが、今の時代に問うことの意味は。

 「私たちの日常は、もう自分…

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