聞き手 編集委員・中小路徹
女子サッカー選手の下山田志帆さんは、同性のパートナーがいることを公表しています。ジェンダーや性の多様性について、スポーツ界がこれまでどんな見られ方をされ、これからどんな発信ができるのか。今年の秋に女子プロリーグが開幕することを踏まえて、聞きました。
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女子プロサッカーのWEリーグには、ジェンダーと性の多様化を考える要素がたくさんあります。
私の所属チームは今季は参入しませんが、WEリーグ入りするクラブの選手と話をすると、リーグの収益が十分に見込めていないこともあり、将来像が見えない不安を感じるようです。
成功の鍵は、ブランディングではないでしょうか。
これまでの女性スポーツは、メディアを見ても、「美人選手」「かわいい選手」という取り上げ方が多く、今の社会情勢にそぐわない面があります。
一方で、モデルにしたいのは米国の女子サッカーリーグです。「男女平等を一緒に発信しよう」というスポンサーの集め方で成功してきました。WEリーグも「日本の女性活躍社会を牽引(けんいん)」を意義として掲げ、各クラブの参入基準に「運営法人を構成する役職員の50%以上を女性とする」「意思決定に関わる者のうち少なくとも1人は女性とする」といったことを設けています。こういう姿勢に、リーグの価値を感じる人は増えると思います。
性の多様さを一つの魅力、強みとしていくことで、関わりたい人を増やしていく要因にもなると思います。実は、女子サッカー界は性の多様さに寛容です。ただ、これまで表向きには色々な性のあり方があることを隠そうとしてきました。
けれども、社会には性の多様性に声を上げる人たちがたくさんいて、色々な企業がダイバーシティー・インクルージョン(多様性・包摂)を打ち出している。女子サッカーもそれを打ち出せないと、選手たちも苦しくなると思っています。
そもそもスポーツは、社会の固定観念の打破に寄与できる可能性がすごくあります。
私が2019年2月に同性のパートナーがいることを公表した時、日本の現役スポーツ選手でLGBTQの当事者であることを公表している人はほとんどいませんでしたが、その状況で気づいたのは、アスリートの立場から発信すると、ポジティブに捉えてもらえやすいということです。
(東京五輪・パラリンピック組織委員会前会長の)森喜朗さんの女性蔑視発言で、アスリート側からの声も徐々に上がりましたが、基本的にアスリートが発信する時に怖がるのは、クラブ側の炎上リスクとスポンサーに迷惑がかかる懸念です。だから、リーグや所属クラブ、スポンサーは「同じ意見だ」と、声を上げる選手の背中を押し、正しいことをしているというポリシーを共通して持ってほしいのです。
我々女子サッカー選手はなぜ、「サッカーの魅力」より「女子サッカーの魅力」を問われることが多いのか。それを考える必要もあると思います。
女子は男子よりスピードが遅く、体格が小さくパワーが劣るから魅力に欠ける。長らくそう言われてきました。そのたびに、私たちもまず男子と比較する。そのうえで何がいいところなのか、を必死に探す。魅力を答えるのが難しいのです。
女子スポーツに、「格好良い」といった見せ方の幅が広がればいいなと思います。(聞き手 編集委員・中小路徹)
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1994年生まれ。茨城県出身の女子サッカー選手。なでしこリーグ・スフィーダ世田谷FC所属。2019年に同性パートナーの存在を公表した。
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