【動画】海からみた被災地 ~カメラがとらえた水中の10年~=朝日新聞映像報道部取材班撮影
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 東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市の雄勝湾で、津波の犠牲になった弟夫婦の後を継ぎ、教師からギンザケ養殖漁師に転職した男性がいる。両親を亡くしたおいや自らの子供たちのために、ふるさとに家業を残そうと奮闘している。

 山に囲まれた雄勝湾の沖合に浮かぶ養殖いけす。約15メートルの深さまで張られた網の中に入ると、銀色に輝く魚が巨大な群れになり、ゆったりと泳いでいた。阿部優一郎さん(50)が育てているギンザケだ。

特集企画「海からみた被災地」
東日本大震災による津波は、陸地だけでなく海の中にも大きな被害をもたらした。大量のがれき、失われた漁場……。あれから間もなく10年。豊かな海はどう変わったのか。震災3カ月後から継続的に被災地の海を潜水取材してきた朝日新聞フォトグラファーたちが報告する。

 震災当時は、福島市の私立高校で英語教師をしていた。養殖業を継いでいた弟の良満さん夫婦が、一人息子の優寿(ゆうと)くんを残して津波で亡くなり、優一郎さんの母親・良子さんは行方不明になった。

 誰かが継がなければ廃業という状況で、「ふるさとが廃れていってしまうのをなんとか防ぎたい」という思いから、転職を決意した。中古の船を買い、鉄工所に依頼していけすを作り直し、2011年のうちから養殖を再開した。

 生き物を相手にする仕事は休みがない。始めた当初は経験不足で、荒れた海に船を出し、港に戻れなくなったこともあった。最初の3年間は赤字続きだったという。

 「弟夫婦はもちろん、津波にのまれた私の母もおいっ子を心配しているはず。親のしていた仕事を伝えてやりたいという気持ちもあって続けてきました」と振り返る。

 養殖は徐々に軌道に乗り、今では震災前の倍ほどのギンザケを育てるようになった。3月下旬には、全国に向け出荷が始まる。(諫山卓弥