学校での甲状腺検査、見直しを 専門医の緑川早苗さん

聞き手・福地慶太郎
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 原発事故後に福島県が始め、当時18歳以下だった県民らの甲状腺を定期的に調べる甲状腺検査。長く検査に関わっていた内分泌代謝科専門医の緑川早苗さんは、検査には問題点があり、方法を見直すべきだと指摘する。

 ――福島県から県民健康調査を委託された県立医大で9年間、甲状腺検査に関わって感じたことは。

 「当初は県民の安心につなげたいと思ったが、いまは極めてメリットが少ない検査という認識だ。被曝線量の推計が進み、集団のがん発生率から被曝の影響を評価できないほど線量は低いとわかってきた。そもそも個人のがんが、被曝が原因か見分ける方法はない」

 「検査で異常はないと説明すると、『被曝の影響はないんだ』と安心する保護者が多かった。でも、異常がないことと、被曝影響がないことはイコールではない。少しでも所見があれば被曝の影響だと誤解されやすく、安心をメリットにうたうのは違和感がある」

 ――がんの早期発見、早期治療にもならないのか。

 「甲状腺がんの9割超の乳頭がんの場合、早期診断早期治療のメリットがあるという科学的根拠はない」

 ――デメリットは何か。

 「無症状の子たちを対象にする今の検査は、一生、体に害を及ぼさないがんを見つける過剰診断が起こりやすい。それを治療すれば手術や経過観察は本来なくていい過剰治療だ。経過観察でも定期的な診察日が近づくと不安になるし、時間も経済的負担もかかる」

 「世界的にも過剰診断が問題になっている。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)の専門家グループは18年、原子力事故後でも、被曝線量に関係なく、すべての住民を対象とする検査は推奨しないと提言した」

 ――県内では、児童生徒が自分の学校で検査を受ける「学校検査」がある。

 「検査を受けることについて、子どもや保護者の同意はとっているが、受診を自由に決められる『任意性』が担保できていない」

 ――どういうことか。

 「年代別では高校卒業後の受診率が大幅に低い。学校で多くの子が検査を受けるなか、受けない選択はしにくいと思う。ある学校の先生から、受けるのが当然な学校行事のようになっていると聞いたこともある」

 ――どう見直すべきか。

 「学校検査はやめ、申込制にすべきだ。学校検査の人手を回して公共施設の検査会場を増やせば、検査機会を確保できる。不安の理由は人それぞれだから、専門家と面談して、検査が必要か、考える場もつくるべきだ。検査も過剰診断を避けるため、がんかどうかを判断する『細胞診(さいぼうしん)』は抑制的にするべきだ」

 ――検査態勢の縮小で、被曝の影響がわからなくなると懸念する人もいる。

 「仮に被曝の影響があっても、過剰診断が多いと影響が見えにくくなる。医療現場で見つかった患者を登録する『全国がん登録』のほうが、過剰診断を避けて影響を評価できると思う」

 「昨年3月に医大を退職する数年前から、医大で検査の問題を指摘しても『県の検討委員会で議論することだ』と言われるようになった。でも、検討委では十分な議論がなかった。検査を改善できないのは耐えがたかったので、医大をやめた。県と医大は検査を一度止めて、検査のあり方を議論するべきだ」(聞き手・福地慶太郎

 みどりかわ・さなえ 1993年、県立医大卒。同大で甲状腺検査の実施や住民説明を担当。2020年4月、宮城学院女子大学教授。専門は内分泌代謝学。検査のことで悩む人たちの相談に応じるため、同年、NPO「POFF」(https://www.poff-jp.com/別ウインドウで開きます)を立ち上げ、共同代表を務める。